2月17日に開催された第2回IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会
2月17日に開催された第2回IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会
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 2009年2月17日,今後の国家IT戦略を検討する「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」の第2回会合が開催された。

 今回の会合では,ITの活用が期待できる「電子行政」,「教育」,「医療・社会保障」,「新産業創出」の4テーマについて,各担当委員がプレゼンテーションを行い,それに対してほかの委員がコメントするという形で進められた。ここで浮かび上がってきた論点の一つが,国民の一人ひとりに割り当てられる「個人ID」である。

 例えば,「複数の医療機関で発生した医療データを安全・確実に扱うには,1つの個人IDが必要」(東京大学公共政策大学院・東京大学政策ビジョン研究センター教授の森田朗氏)という意見が出された。ほかの分野でも,データの2重登録による業務非効率化や入力ミスの弊害の視点から,個人IDの導入に賛成する委員が多かった。

 ただし,国民IDの導入については慎重な意見もある。主婦連合会の河村真紀子氏は「“個人IDありき”で議論を進めるのはどうか」と疑問を投げかけた。過去の例から,ID管理上の信頼感や実効性を疑問視するからだ。座長代理を務める慶應義塾大学教授の國領二郎氏は「シングルID(IDの一本化)かどうかはともかく,データ連携はしっかりと取り組む」という意見を述べている。個人IDに関しては,野田聖子IT担当大臣が第1回会合の冒頭あいさつの中で「きちんと議論されてこなかった」と言及したこともあり,今後の重要な論点になりそうだ。

 野田大臣は第1回会合で,省庁におけるCIOの形骸化についても指摘していたが,第2回でも「トップダウンの重要性」を指摘する声が相次いだ。例えば電子行政の推進については,「電子行政推進本部」(東京工業大学教授の大山永昭氏),「専任の国務大臣」(東京大学大学院教授の須藤修氏)というアイデアも出た。

 このほか,「ネットを当たり前に使いこなす15歳の目線も必要」(日本経済新聞社編集委員の関口和一氏),「マシン中心だった“e-Japan”,ネットワークが中心だった“u-Japan政策”に続くのは,利用者(人間)が中心のH-Japan(Human Centric Japan)戦略ではないか」(野村総合研究所シニア・フェローの村上輝康氏),「過去のシステム構築の反省点として,本来使う国民が参加していなかった」(NTTデータ相談役の浜口友一氏)といった“ユーザーの視点”を重視すべきという意見や,「電子カルテは,当事者(医師)のメリットが全くないので導入が進まない」(東京大学大学院の須藤氏)という“ITシステムを負担する側のメリットやビジネスモデルの必要性”も示された。

 調査会の当面の目標は短期的な経済対策を打ち出すことだが,抽象度が高い議論が多かっただけに,今後,どのような具体策に落とし込まれるのか注目される。座長代理の國領氏は議論をまとめる形で「システム間のデータ連携」,「死蔵した情報の活性化」,「制度上のネック」に触れていることから,まずはこのあたりがターゲットになるのだろう。パブリックコメントは,2月22日まで受け付けている(首相官邸のサイト)。

 同専門調査会の活動は,2期に分けられる。3月末までに現在の経済危機を克服するための今後3カ年の緊急プランをまとめる。引き続き,6月末までに2015年までを見通した次期政府IT戦略をまとめる。17日の第2回会合では,ここまでの議論の内容を経済財政諮問会議(2月25日開催予定)にインプットするという内容が報告された。