「べンダー・ロックインの危険。ソースコードを自分で改変できないことによるビジネス・チャンスの損失。ライセンス費用の過大な負担。今あるデータの将来にわたる利用が可能かどうか。これらの問題点は全てオープンソースで解決できる」---Nexedi日本法人代表取締役/ERP5テクニカル・リード 奥地秀則氏は2009年2月12日,「OSS(オープンソース・ソフトウエア)アプリケーション・パッケージの動向」と題するセミナーで,オープンソースのERP(統合業務アプリケーション)を使うメリットをこう強調した。

 セミナーは特定非営利活動法人 オープンソースソフトウェア協会(OSSAJ)が主催したもの。Compiere(コンピエール),Nexedi,HOOPと3種類のオープンソースERPについて講演が行われた。

Compiereの国内事例が10件に

アルマス代表取締役社長 ジリムト氏
アルマス代表取締役社長 ジリムト氏
[画像のクリックで拡大表示]

 アルマスのジリムト代表取締役社長は,同社が日本語化を手がけているオープンソースERPのCompiereを紹介した。Compiereは米Compiere社が開発したJavaベースのERP。販売管理,購買管理,材料管理,会計などのモジュールからなり,コミュニティ版をオープンソース・ソフトウエアとして無償公開している。アルマスはCompiereの日本語化と日本の商習慣への対応を行い,自社の業務に使用するとともに,オープンソース・ソフトウエアとしてSourceForge.jpで公開している。ジリムト氏はモンゴル出身で,日本に留学して日本のSI企業に就職後,起業しアルマスを設立した。

 日本でもすでに少なくも10件のCompiere導入事例があるという。導入企業のシステムとプロフィールは以下のとおり。

・衣料品販売会社の基幹システム(東京都世田谷区,50人規模,年商約8億円)
・オーダーカーテン会社の基幹システム(東京都中野区,50人規模,年商約8億円)
・ミネラルウォーター配送管理システム(東京都港区)
・靴輸入販売会社の基幹システム(神戸市,10人規模,年商約5億円)
・証券業務統合システム(東京都港区)
・研修教育サービス会社基幹システム(東京都渋谷区,企業の技術者がトレーニングを受け3カ月で導入)
・電気製品会社の基幹システム(東京都港区,海外工場を持つ)
・ネットワーク通信製品メーカー(東京都渋谷区,年商約50億円,導入作業中)
・環境衛生サービス業(千葉県,60名規模,導入作業中)
・ITサービス業とそのパートナーなど4社(アルマスおよび千代田区,港区,中央区の企業,10~50人規模)

 ほとんどが販売管理システムで,うち2事例は会計システムも導入している。プロジェクト規模は大きいもので2000万円,小さいもので500万円で,ユーザー数は50ユーザーから20ユーザーという。

ERP5は日本でも1000名超の導入

Nexedi日本法人代表取締役/ERP5テクニカル・リード 奥地秀則氏
Nexedi日本法人代表取締役/ERP5テクニカル・リード 奥地秀則氏
[画像のクリックで拡大表示]

 ERP5はフランスNexediが開発し公開しているERP。人事管理,会計管理,生産管理,顧客管理(CRM),コンテンツ管理(CMS),オンライン取引(販売,購買)モジュールからなる。Pyhtonで開発されたアプリケーション・サーバーZope上に構築されている。欧州のある中央銀行や,フランスの水着メーカーCoramy,フランスの水道局などで導入されている。日本でも規模1000名超と,20名の2つの案件ですでに利用されているという。

 ERP5は,オブジェクト指向スクリプト言語Pythonによるアプリケーション・サーバーZope,データベースはMySQLと,全面的にオープンソースのミドルウエア上に構築されている。

 奥地氏はLinuxの標準的なブートローダー(OSを起動するプログラム)となっているGNU GRUBのメンテナ(開発責任者)として知られており,GRUBの改良プロジェクトで独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の未踏ソフトウェア創造事業にも採択されている。

 オープンソース・ソフトウエアとして公開する理由について「ERPでは,コンサルティングなどの収入に比べてライセンス料の比重は低い。オープンソースにすることで需要が増え,最終的には儲かる」と述べた。