ITproビジネス・カンファレンス「企業のためのパンデミック対策」で講演した,特定非営利活動法人事業継続推進機構で理事を務める深谷純子氏
ITproビジネス・カンファレンス「企業のためのパンデミック対策」で講演した,特定非営利活動法人事業継続推進機構で理事を務める深谷純子氏
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 「BCP策定に取り組み,労務や給与の具体策などを考えておけば,いざという時に大きな損害を出さずに済むかも知れない」---。特定非営利活動法人事業継続推進機構で理事を務める深谷純子氏は2009年1月28日,ITproビジネス・カンファレンスで講演し,企業が今すぐに取り組むべき新型インフルエンザ対策のあり方を,5つのステップを示して解説した。講演題目は「待ったなしの新型インフルエンザ対策 ~ 企業に求められる取り組みとBCP策定の考慮点」である。

 冒頭で深谷氏は,新型インフルエンザ対策のためのBCP策定の前提として,参考資料として各種のガイドラインや法規などを参照することと,企業が取り組んでいる既存のBCP/BCMとの連携を考えることが必要であるとした。有効で,現実に即した対策でなければならないとうわけだ。こうした大前提の下,以下の5つのステップ,(1)想定リスクの確認,(2)BCP方針の策定,(3)影響分析,(4)対策の実施,(5)啓発・訓練---でBCPに取り組む必要があるという。

 ステップ1「想定リスクの確認」で大切なことは,初めから数多くのリスクを想定せずに,シンプルなリスクからスタートすること。社会における自社製品の需要の変化や公共インフラの状況といった複雑な想定項目は後回しにして,まずは欠勤率が一定値を超えるといった想定からスタートする,というものだ。想定が多くなると,対策を検討するまでに時間がかかってしまうのが,シンプルにスタートする理由である。

 ステップ2「BCP方針の策定」で大切なことは,BCPの目的をはっきりさせ,その上で継続すべき業務と,停止させる業務とを区別しておくことである。個々の業務の継続/停止を判断する要素としては,社会機能の維持に必要なものなのか,最終ユーザーは誰なのか,サプライヤなどとの関係を考慮した地域性はどうか,インフルエンザ発生時の需要はどうなのか,といったものがある。

 ステップ3「影響分析」,特に継続することを決めた業務への影響の分析は,いくつかの重要なポイントがある。最も大切なポイントは,インフルエンザの感染リスクの調査である。例えば,オフィス・レイアウトによって感染リスクが異なる。個室や在宅勤務などは感染リスクは低いケースだ。感染リスクに次ぐポイントは,業務継続のための要員不足や,サプライチェーンにおける影響,財務上の影響となる。

 要員不足の影響としては,まずは必要な人数/スキルを確保できるかどうか。さらに,必要な資格を持っている要員の確保,労働契約の形態が事業継続時の労働形態に見合うか,といった問題があるという。サプライチェーンにおける影響としては,例えば銀行ATMの現金保守は物流業務であり,現金の輸送はアウトソーシングされている。これを維持可能かどうか,といった問題である。このほか,テナント・ビルがパンデミック時に使えるのかどうか,という問題がある。事前に警備会社/清掃会社/管理会社などと交渉しておく必要があるかも知れない。

 ステップ4「対策の実施」の解説では,事業継続推進機構が企業に対して実施したアンケート調査を紹介した。企業からは,「労務の扱いと給与の扱いを,具体的にどうすればいいのか」という実践的な質問が多数寄せられたという。こうした具体的な取り組みにおいて,深谷氏は,いくつかの例を示した。まず,企業には安全配慮義務がある。マスクなどを配るだけでは不十分であり,社員教育や訓練などを実施して初めて義務をまっとうしたことになるという見解を示した。さらに,給与に関しては,BCPを策定した上での不可抗力として休業した際には,給与の支払いに関して免除されるのではないかという見解を,民法を引き合いに出しつつ示した。

 ステップ5「啓発・訓練」においては,最も重要な意識改革として,積極的に出社を控える態度が重要になるとした。「カゼくらいで休むな」という考え方を改めなければならない。