写真1●登壇者左から事業継続推進機構で理事を務める日本IBMの深谷純子氏,東京海上日動リスクコンサルティングの青地忠浩氏,富士ゼロックスの中島稔氏,大幸薬品の柴田高氏,危機管理/広報コンサルタントの平能哲也氏
写真1●登壇者左から事業継続推進機構で理事を務める日本IBMの深谷純子氏,東京海上日動リスクコンサルティングの青地忠浩氏,富士ゼロックスの中島稔氏,大幸薬品の柴田高氏,危機管理/広報コンサルタントの平能哲也氏
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 2009年1月28日,ITpro主催のセミナー「企業のためのパンデミック対策」の講演者によるQ&Aセッションが実施された(写真1)。新型インフルエンザへの備えを重く見る参加者から集まった質問は,一般書籍や公開マニュアルでは得られない“盲点”を突くものばかり。「地震対策との決定的な違い」「役に立たないマニュアル」などが次々と明らかになるセッションとなった。

 回答者として登壇したのは,事業継続推進機構で理事を務める日本IBMの深谷純子氏,東京海上日動リスクコンサルティングの青地忠浩氏,富士ゼロックスの中島稔氏,大幸薬品の柴田高氏の講師陣と,Q&Aセッションからの参加となった危機管理/広報コンサルタントの平能哲也氏の計5人。ITproの吉田琢也副編集長が来場者を代表して質問を投げかけた。

対策本部の組織体制は「分散型」がベター

写真2●「企業のためのパンデミック対策」セミナー参加者からの質問例
写真2●「企業のためのパンデミック対策」セミナー参加者からの質問例
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 Q&Aセッションでは,20問を超える質問に対して5氏が回答。いずれも既に対策を進めている企業で最前線に立つ参加者からの質問と思われる切迫感のある内容が目立った(写真2)。

 例えば「対策本部の作り方は?地震対策との違いは?」という問いに対しては,東京海上日動リスクコンサルティングの青地氏が「パンデミックは持続する危機。拠点分散型の対策本部を設けなければ,“全滅”の危険性がある」と回答。一方で,既に地震など一過性の災害を念頭に置いた対策を整えているのであれば「流用できる点は流用すべき。下手に変えると従業員の混乱を招く」(青地氏)とし,実効性の維持を心がけるべきと釘を刺した。

 これに対し事業継続推進機構で理事を務める日本IBMの深谷氏は,「地震対策本部のメンバーは本社要員が中心で,復旧の対象は顧客システムなどがメイン。パンデミック対策は本社だけでなく,事業部門が対策本部に名を連ねている」と自社の事例を紹介し,横断型の組織が有効とした。

 深谷氏はまた,ある金融機関の対策組織の事例を紹介。「拠点ごとに分散させる場合と,勤務する従業員を勤務と自宅待機の2チームに分け,1週間ごとに交代させる場合の2ケースがある」という具体例を提示した。

従業員に対する周知の大敵は「あいまいなマニュアル」

 「社員教育とマニュアルの周知はどうすべきか?」という問いについては,実際にパンデミック対策を進めた富士ゼロックスの中島氏が「教育を繰り返すことと,海外勤務者や従業員以外の業務に携わるメンバーすべてに目を配るべき」と基本思想を披露。これを補う形で危機管理/広報コンサルタントの平能氏が「周知すべきマニュアルにそもそも問題のあるケースが多い」と指摘した。

 問題のあるマニュアルとは,行動指針の記述に「必要に応じ」「可能であれば」「できるだけ避ける」といった文言を含むもの。平能氏は「あいまいな文言を含む行動指針は,パンデミック時にはまるで役に立たない。当然,従業員も読む気にならない」とバッサリ。「備蓄品配布の手順など決められる事項は明確に記述し,未定の指針は『未定』として策定を進めるのが筋だ。『不要不急の外出は避ける』として安心するのではなく『必要な外出』をたとえ1例でも明示すべき」(平能氏)とし,事なかれ主義のマニュアルを切って捨てた。

 意見の一致を見たのは「マニュアルはビジュアルが大事」というもの。大幸薬品の柴田氏は「従業員への周知手法の一つとして動画を取り入れている」と説明。平能氏は「一般に入手できる公開マニュアルの中では,兵庫県明石市が作成したものが写真を多く使い具体的で分かりやすい。パンデミック時に市長が出すメッセージを規定している点なども企業にとって参考になる」とした。

 その後も「休業中の給与の支払い義務は」「中国に拠点があるが,中国政府の姿勢は」と真に迫った質問が相次ぎ,Q&Aセッションは時間を10分弱オーバーする形で終了。Q&Aセッションの講演録を後日来場者限定でWebにて公開する旨のアナウンスが流れると,安堵の声を漏らす参加者の姿が見られた。

■変更履歴
 最後から2番目の段落で,当初,コメント「従業員への周知手法…参考になる」の全体を柴田氏の発言としていましたが,「一般に入手できる公開マニュアル…」以降は平能氏の発言でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/02/10 11:25]
 最後の一文で,当初「回答し切れなかった質問事項を後日来場者限定でWebにて公開」としていましたが,正しくは「Q&Aセッションの講演録を後日来場者限定でWebにて公開」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/02/06 19:20]