写真●独IDSシェアーのアウグスト・ヴィルヘルム・シェアー創立者兼会長
写真●独IDSシェアーのアウグスト・ヴィルヘルム・シェアー創立者兼会長
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 「景気低迷で,企業を取り巻く環境は厳しい。IT投資は抑制傾向にあり,金融やサービス業を中心にリスク重視の姿勢を強めている。幸いなのは2001年のインターネット・バブル崩壊の時と違い,IT業界が今回の不況の原因を作り出したわけではないことだ。我々は課題を解決する手段を提供できる立場にある」。こう話すのはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ツール大手,独IDSシェアーの創立者であるアウグスト・ヴィルヘルム・シェアー会長である(写真)。

 IDSシェアー・ジャパンが2009年1月22日に開催した「ARIS ProcessDay Tokyo 2009」の基調講演で,シェアー会長がキーワードとして挙げたのは「柔軟性(フレキシビリティ)」。いまの市場の状況に応じて,企業が新たな製品やサービスの戦略を立案して実践に移すといった作業を臨機応変にできるようにすることをいう。そのためには,ビジネスプロセスを柔軟に作ったり変えたりするためのBPMソフトが有効だと,シェアー会長は主張する。

 では,ビジネスプロセスをどのようにとらえ,どう扱えば景気低迷下の状況でもコスト効果を得られるのか。シェアー会長はBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の考え方を打ち出したとして知られるマイケル・ハマー氏の書籍を引用して,そのヒントを提示した。

 「ハマー氏の本を読んだのは20年前だが,今でも覚えている三つの大切なフレーズがある」(シェアー会長)。一つ目は,「どんなプロセスでも,ない(ゼロプロセス)よりはいい」。企業の活動を,始まりと終わりがあるエンド-トゥー-エンドのプロセスの単位で理解せよという意味である。

 「非常に単純なフレーズに見えるが,行間をみると単純ではない」とシェアー会長は話す。「例えば,どこをプロセスの始まりと見なすのか。営業プロセスなら,営業部門が基点なのか。それとも営業が訪問する顧客企業か。もしかするとその顧客企業が相手にする一般消費者かもしれない」(同)。プロセスの終わりも同様だ。「商品を顧客に納入したときが終点なのか。それとも,請求者に入金されたときか。購買に関する法的手続きが完了したときか。いろいろなケースがあり得る」(同)。

 二つ目のフレーズは「よいプロセスのほうが悪いプロセスよりもいい」。これも一見,当然のように思えるが,「ではプロセスがよい,悪いとどう決めればよいのか」という疑問が出てくる。これを決めるためには,「プロセスの評価が必要になる。評価のためには品質を表す指標を作らなければならない」(同)。

 三つ目のフレーズは「よいプロセスも必ず改善の余地がある」。ビジネスプロセスは継続して作成・改変するのが前提ということだ。シェアー会長はある銀行を引き合いに出した。「その銀行は3000以上のビジネスプロセスを作成した。その後1年以内に,プロセスの8割を変更した。事業の統廃合,新たな商品やサービスの提供などのたびにプロセスを継続的に変更する必要があった」(同)。

 シェアー会長は,こうしたBPMの考え方は「ホリスティック(全体的)」なアプローチに基づくものだと強調する。「SAPやオラクルのERP(統合基幹業務システム)パッケージとどう連携させるかといった実装面の話だけではない。企業のあらゆるところに影響を及ぼす」(同)。「インターネットにとってWebが“キラーアプリ”だった。パソコンにとっては表計算ソフトがキラーアプリだった。同様に,BPMは企業システムにとってキラーアプリだと考えている。コスト削減や売り上げの増加といった企業の便益に貢献するからだ」とシェアー会長は語る。