「我々がネットワーク中立性を脅かそうとしているという米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事は誤解に基づいている」――米グーグルの通信およびメディア担当弁護士であるリチャード・ウィット氏は2008年12月15日(米国時間)、同社がコンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)構築のためにインターネット接続事業者(ISP)と交渉していることを認め、それがネットワーク中立性を脅かすようなものではないとの声明を発表した。

 ウィット氏の声明は、2008年12月15日付のWSJ紙の記事「Google Wants Its Own Fast Track on the Web(グーグルは自社だけのWeb高速道路を求めている)」に対して発表したもの。同記事は、グーグルがブロードバンド通信事業者と連携することで、自社のコンテンツだけを他の通信よりも高速に伝送しようとしていると報じている。

 提携の名称は「OpenEdge」。グーグルのサーバー群をISPのデータセンターに置くことで、グーグルのデータをエンドユーザーからより高速にアクセス可能にする。WSJの記事は、OpenEdgeのような取り組みによって、いかなるコンテンツプロバイダのトラフィックも公平に扱うという「ネットワーク中立性」が危機に瀕していると指摘した。

 さらに同記事では、グーグルとの提携に乗り気ではないケーブル事業者が、グーグルとの提携はFCC(連邦通信委員会)の定める「ネットワーク中立性ガイドライン」に抵触するのではないかと危惧していると述べ、「グーグルのトラフィックだけが優先的に扱われるようになれば、インターネットは裕福な会社だけがWebに高速で簡単にアクセスできる場所に変容し、競争が阻害される」と批判した。

 このほか同記事は、バラク・オバマ次期大統領の新政権でFCCの委員長に就任することが有力視されているローレンス・レッシグ氏(スタンフォード大学教授で、非営利団体クリエイティブ・コモンズの創設者として知られる)が最近、「コンテンツプロバイダが費用を支払えば高速なサービスを利用できるようにすべきだ」と主張していることを挙げ、グーグルのOpenEdge構想の実現性が高いと分析している。

OpenEdgeは単なるCDNと主張

 WSJ紙の報道に対してグーグルの弁護士であるウィット氏は、OpenEdgeはいわゆる「エッジキャッシング」の取り組みであると指摘。「エッジキャッシングは、さまざまなISPと、アプリケーションプロバイダやコンテンツプロバイダとの間で行われている取り組みで、エンドユーザー体験の向上に役立っている。米アカマイや米ライムライト・ネットワークス、『Amazon Cloudfront』の提供を始めた米アマゾン・ドット・コムなどがブロードバンドプロバイダと連携して取り組んでいるこのようなキャッシングを、CDN(コンテンツ・デリバリ・ネットワーク)と呼ぶ」と主張。OpenEdgeが単に従来からあるCDNであり、WSJが言うようなネットワーク中立性を損なう取り組みではないと強調した。

 ウィット氏の声明によればグーグルは現在、動画サービス「YouTube」のようなコンテンツを配信するために、ブロードバンドプロバイダのデータセンターにグーグルのキャッシュサーバーを配置する取り組みを続けているという。ウィット氏は「ブロードバンドプロバイダのデータセンターにコンテンツをキャッシュすることで、インターネットバックボーンのトラフィックを抑制できる」と、CDNの効用も強調している。