「180万ID,月間25億ページビューの携帯サイト『フォレストページ』はPostgreSQLとpgpool-II,Slony-Iで可用性を確保している」(ビジュアルワークス 取締役社長室長 落水恒一郎氏)---。オープンソース(OSS)のデータベース管理システムPosgtreSQLのユーザー団体である日本PostgreSQLユーザ会は2008年11月28日,「PostgreSQL事例セミナー2008」を開催した。フォレストページをはじめ,新潟県上越市や住友電気工業の基幹システム,日立メディコの医療用画像データベースなど多数の事例が発表された。

pgpool-IIとSlony-Iで可用性と負荷分散

ビジュアルワークス 取締役社長室長 落水恒一郎氏と同社の携帯電話向けサービス
ビジュアルワークス 取締役社長室長 落水恒一郎氏と同社の携帯電話向けサービス
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フォレストページの負荷分散・冗長化のためのアーキテクチャ
フォレストページの負荷分散・冗長化のためのアーキテクチャ
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 フォレストページはビジュアルワークスが運用している携帯電話向けサイト。ユーザーが自分で携帯電話向けホームページを作成できる。ユーザーの95%は女性で,うち8割が10代である。月間訪問ユーザー数は200万人。関連サイトの小説投稿サイトからは「天使のいた屋上」などの書籍も生まれている。

 フォレストページはデータベース管理システムとしてオープンソースのPostgreSQLを採用している。「サイトを構築した4年前,最も情報が充実していた」(ビジュアルワークスの落水氏)からだ。アプリケーション開発言語はPHP,OSはLinuxである。

 負荷分散と可用性確保のため,同社ではPostgreSQLを冗長化している。マスター・サーバーから複数のスレーブ・サーバーにデータを複製,更新はマスター・サーバーに,参照はスレーブ・サーバーにアクセスすることで負荷を分散する。このシステムを実現するために,オープンソースのコネクション・プーリング/負荷分散ツールpgpool-IIと,データ複製ソフトSlony-Iを利用している。平日の夜間,運用しながら36時間で導入したという。導入コンサルティングは,pgpoolを開発した石井達夫氏が社長を務めるSRAOSS日本支社が担当した。

自治体向け共通プラットフォームを全てOSSで

新潟県上越市の「OSSによる統合DBを介した基幹システムと業務システム連携の実証」で行われた性能検証
新潟県上越市の「OSSによる統合DBを介した基幹システムと業務システム連携の実証」で行われた性能検証
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 新潟県上越市は2007年度のIPA(独立行政法人情報処理推進機構)のオープンソース活用実証事業で「OSSによる統合DBを介した基幹システムと業務システム連携の実証」プロジェクトを実施した。APPLIC(財団法人 全国地域情報化推進協会)が策定している自治体向け共通プラットフォームを全てオープンソース・ソフトウエアで実現,検証するというものだ。具体的にはOracleをPostgreSQLに,WebLogic ServerをJBossに置き換えた。PostgreSQLはpgpool-HAと組み合わせクラスタリングすることで可用性を高めている。検証の結果,レスポンスなどは十分実用に耐えるという評価が得られたという。

 PostgreSQLを選択したした理由は「可用性を確保するための選択肢が豊富なこと,企業買収による影響を受けにくいこと,国内で実績や情報が多いこと,新潟にもコミュニティがあり協力を得やすいこと」(実証を担当したBSNアイネット 白柏雅資氏)という。実証実験の実施報告書はIPAのサイトで公開されている。

 またBSNアイネットでは現在,「全国障害者スポーツ大会競技運営システム」をPostgreSQLなどのオープンソース・ソフトウエアを採用し開発している。2009年の「トキめき新潟国体」に併せて開催される「全国障害者スポーツトキめき新潟大会」で利用するためのシステムで,「新潟大会の終了後は他県の大会でも利用されることを希望している」(BSNアイネット 白柏雅資氏)。

 また同社では社内のワークロー・システムをRuby on RailsとPostgreSQLを採用し構築,社内での利用を始めている。

社内標準DBMSに,50システム以上で採用

住友電気工業の標準システム構成
住友電気工業の標準システム構成
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 住友電気工業では,2005年から社内の標準データベース・システムにPostgreSQLを指定している。Linux,Tomcat,PostgreSQL,Xenが同社の標準であり,特に理由がなければこれらを利用することになっている。社内ポータル・サイトや申請システムなど多数のシステムがこの組み合わせの上で稼動しており「現在開発が継続しているものだけでも50以上のプロジェクトがPostgreSQLを採用している」(住友電気工業 情報システム部 中塚康介氏)。

 現在,経理システムでのPostgreSQL採用を検討しており「1900万件のテーブルと43万件のテーブルを結合して集計するベンチマークでは商用データベースとしてまずまずの結果が出ており,採用する方向で進んでいる」(中塚氏)という。

DW専用マシンのべースに,証券取引所などが採用

 米Sun Microsystemsは,同社のデータウエアハウス(DW)専用サーバー「SunDWアプライアンス」で,PostgreSQLをベースしたデータベースを採用している。米Greenplumが開発したデータウエアハウス・システム「Greenplum DB」である。

 SunDWアプライアンスはニューヨーク証券取引所Euronex,フィリピンPhilipine Long Distance Telephone,インドReliance Communicationsで採用されている」(サン・マイクロシステムズ システム技術統括本部 中村完氏)という。

1日12万枚の医療用画像システム

 日立メディコは,CTやMRI,X線画像など医療機関が撮影したデータを保存する「DICOM画像システム」のデータベースとしてPostgreSQLを採用している。2002年に発売したDICOM画像サーバーWeVIEW(OSはLinux)および画像診断ワークステーションNV-1000(OSはWindows XP)がPosgtreSQLを内蔵している。PosgtreSQLにはDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine ,医用におけるデジタル画像と通信)に基づく画像の属性情報データと,画像ファイルのパス(置き場所とファイル名)を格納している。1200床の大規模病院では,1日あたり約12万枚の画像が撮影され,年間16テラバイトの画像データが格納されるという。

携帯向け電子ちらしサイト

 オールクリエイターは同社が開発,運営しているちらし・口コミサイト「とっとくねっト」の事例を紹介した。2006年から実運用を開始,「日本で初めて携帯3社に対応した電子ちらしサイト」(オールクリエイター 代表取締役 橋本俊秀氏)という。現在の会員は約2万人である。

 開発言語は当初Perlでリニューアルの際にPHPに移行した。データベースは当初OracleとPostgreSQLを比較検討し,いつでもOracleに移行できるよう標準SQLで開発したが,「PostgreSQLに満足しており,変更していない」(橋本氏)という。