良品計画の小森孝 執行役員情報システム担当部長兼流通推進担当管掌
良品計画の小森孝 執行役員情報システム担当部長兼流通推進担当管掌
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 「事業環境や業務プロセスは日々刻々と変わる。この変化にシステム部門が機敏に対応する方法を突き詰めた結果、7割主義でシステムを内製化する結論に辿り着いた」。無印良品ブランドを展開する良品計画の小森孝 執行役員情報システム担当部長兼流通推進担当管掌は、2008年11月26日に東京都内で開催された「IT Service Forum 2008」で、基幹系システムを内製化した理由を明かした。

 同社が基幹系システムを内製化したのは2006年12月のこと。それまでは複数のITベンダーにシステムの開発から運用・保守まで依頼していた。そのため、「業務プロセスの変化に機敏に対応できなかった。業務要件をきちんと決めても、システムが稼働する頃には業務プロセスが変わっている。結局、手戻りが多く発生していた」(小森執行役員)。

 システム部門の体質にも問題があった。「保守的なスタンスが強く、ITベンダーへの依存度も高かったため、システム部門が機動的に動けなかった。システム部門とITベンダーの役割・責任範囲も不明確だった」(同)。

 良品計画が扱う商材は、いわばどこでも取り扱っている日用品だ。他社と差異化できる部分は、商品企画から生産・販売までを迅速に実行できるMD(マーチャンダイジング)プロセスにある。「それを支えるシステムを機敏に開発・変更できなければ、会社の強さを発揮できない」(小森執行役員)。そこで同社は、外部のITベンダーに依存していた体制を改め、事業の核となるMDシステムを内製化することにした。

 システムの開発・保守に対する方針も180度転換した。「完璧なシステムは目指さない。要件定義に時間をかけず、7割主義で開発する。そして、使いながら完成度を高める」という方針に変えた。具体的には、システム開発や変更の要望が利用部門からあがると、すぐに関係者を集めてイメージ画面や処理プロセスを決める。その直後にシステム部門がアプリケーションを開発し、1~2週間後にはリリースする。そして1週間程度使ってから、システムを手直しする――という流れだ。

 「システムを社内で開発できるからこそ、機敏な対応ができるようになった。7割主義で開発するため、システム部門や利用部門が身構えることなく、システム開発に臨める。システム部門が機敏に対応できるため、利用部門も協力的になる」と、システムを内製化する利点を小森執行役員は強調する。

 POS(販売時点管理)や会計、物流管理システムといった機敏さが求められないMD以外のシステムは、現在も外部のITベンダーに開発・保守を依頼している。だが、ここでも変化は現れた。「内製化する部分とそうでない部分を切り分けたことで、システム部門とITベンダーとの役割・責任範囲が明確になった。馴れ合い状態だった以前と違い、ほどよい緊張関係を保てるようになった」と言う。

 講演の最後、小森執行役員は1枚の自転車の写真を示した。創業当時からのロングセラー商品で、“泥よけ”や“ライト”が付いていない自転車である。それらを付けるかどうかは、顧客が自転車の用途に合わせて選ぶ。「自転車の本質は、軽快に走ること。それ以外の機能は、用途に応じて取り付けたり、外したりすればよい。システムも同じだ」と小森執行役員は説明する。

 「システムの本質は、事業戦略に沿ってデータ処理を行うこと。それ以外の機能は、事業環境や業務プロセスに応じて、柔軟に変えられるものでなくてはならない。システムもこの自転車のようなものでありたい」と講演を締めくくった。