Rubyの作者,ネットワーク応用通信研究所/楽天技術研究所 フェロー まつもとゆきひろ氏
Rubyの作者,ネットワーク応用通信研究所/楽天技術研究所 フェロー まつもとゆきひろ氏
[画像のクリックで拡大表示]
CE Linux Forumマーケティング・チェア/ソニー テクニカルマーケティングマネージャ 上田理氏
CE Linux Forumマーケティング・チェア/ソニー テクニカルマーケティングマネージャ 上田理氏
[画像のクリックで拡大表示]
アプリックス 代表取締役社長 郡山龍氏
アプリックス 代表取締役社長 郡山龍氏
[画像のクリックで拡大表示]
日経BP社 執行役員 日経エレクトロニクス 浅見直樹 発行人
日経BP社 執行役員 日経エレクトロニクス 浅見直樹 発行人
[画像のクリックで拡大表示]

 「組み込み開発に押し寄せるオープンソースの波は日本の産業に何をもたらすのか」---2008年11月21日,組み込み技術展「Embedded Technology(ET) 2008」で「オープンソース・イノベーション:ソフト開発のエコシステムを求めて」と題するパネルディスカッションが行われた。

 パネリストはオープンソースのプログラミング言語Rubyの作者 まつもとゆきひろ氏,アプリックス 代表取締役社長 郡山龍氏,CE(Consumer Electronics) Linux Forumマーケティング・チェアでソニー テクニカルマーケティングマネージャ の上田理氏。モデレータは日経BP社 執行役員 日経エレクトロニクスの浅見直樹発行人が務めた。

自前主義から部門・企業のカベを越えた統一へ

 モデレータの浅見氏は日経エレクトロニクスの記事を示しながら「開発コストに占めるソフトウエアの割合はDVDレコーダーでは約60%,携帯電話では約80%に達している。組み込み機器を作ることはソフトウエアを作ることとイコールに近付いている」と指摘。そして「かつてはソフトウエアを部署ごとに自前で作っていたが,開発コスト削減と品質確保のためにプラットフォームの統一が大きな課題になっている」という問題意識を提示した。パナソニックは6年前,全社共通プラットフォームをUniphierと呼ぶチップとミドルウエア群に統一した。統一すれば当面は移行などのために作業は増える。しかし同社は10年後を見越して決断した。その経営判断が現在のパナソニックを支えている。

 さらに一企業の部門間にとどまらず,企業間のカベを越えたプラットフォーム統一が進行している。「5年ほど前,パナソニックがデジタルテレビに最初にLinuxを使い始めた。国内ほぼすべてのメーカーのデジタルTVがLinuxを採用しており,HDDレコーダーの多くやHDDビデオカメラにも使われている」(CE Linux Forum 上田理氏)。

 CE Linux ForumはLinuxを採用する家電メーカーなどが参加するコミュニティである。現在は世界のメーカーから技術者が参加しており,日本,米国,欧州,韓国などでイベントが開催されているが,その源流はソニーとパナソニックがLinuxを共同開発するために提携したことにある。

 ソニーでも自社でOSを開発していた。「プロプライエタリなOSは何でも自分で自由にできる。しかし,新しいデバイスの対応,新しいネットワークへの対応,バグの修正,全て自社で行わねばならず,その開発コストが重くなってしまった」(上田氏)。現在ではソニーの主要製品のほとんどがLinuxを採用している(関連記事「ソニー中鉢社長がOSS推進フォーラム幹事に就任した理由」)。

世界の技術者による協業

 Linuxが普及した最大の理由のひとつは,オープンソースであることにある。

 Rubyの作者であるまつもとゆきひろ氏はオープンソース・ソフトウエアの定義と歴史を解説した。「ソースコードが公開されているオープンソース・ソフトウエアは開発者に問い合わせることなく情報が得られ,自由に改良でき,開発者同士が協力しやすい」(まつもと氏)。

 Rubyもオープンソースで公開したことで世界中からプログラマが開発に参加,まつもと氏が作業することなくCrayのスーパーコンピュータや,携帯電話向けOSであるSymbianにまで移植されている。またデンマークに在住していたDavid Heinemeier Hansson氏がRuby on Railsと呼ぶフレームワークを開発しオープンソース・ソフトウエアとして公開したことでWebアプリケーション向けにも普及。米GatnerによればRubyプログラマの数は現在世界中に100万人弱,4年後には400万人に達する見込みという。

 組み込みLinuxにおいても,企業のカベを越えた協力により改良が行われてきたと上田氏は言う。もともとデスクトップやサーバー向けに開発されてきたLinuxには,必要メモリー・サイズの大きさ,起動時間,省電力機能など,組み込み機器に使用するためには解決しなければならない課題が多数あった。しかし,競合する企業同士が協力したことで短期間に改良が進み,現在では携帯電話やデジタルカメラなど,消費電力や起動時間の制約が厳しい機器にも多数搭載されている。さらに省電力機能がブレード・サーバーのメーカーにも注目されるなど組み込み機器以外の分野にも効果をもたらしつつあるという。

 携帯電話向けJavaプラットフォームJBlendなどを開発するアプリックスの郡山龍氏は「ソフトウエアは人間の叡智だけで作られている唯一の工業製品であり,ソフトウエアこそが機械に生命を吹き込む」と組み込み機器におけるソフトウエアの重要性を強調。そして「昨日自分が書いたコードより,今日書いたコードの方が進歩している。昨日のソースはもういらない。誰かがすでに作ったものと同じものを作って人間の叡智を無駄遣いしないためには,昨日のソースコードは共有し,新しいこと,差別化になる部分に叡智を使わなければならない」と指摘した。