写真1●AltaTerra プリンシプル・アナリストの岸本善一氏
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 「米国のデータセンター間でPUEを競う動きが過熱している。自然エネルギーの採用や冷却技術の向上などで,PUE(電力使用効率指標)は理論値の限界である1.2に近づきつつある」──。2008年11月21日,東京・新宿で開催されたデータセンターに関する国際会議「DatacenterDynamics」で,米国調査会社のAltaTerraでプリンシプル・アナリストを務める岸本善一氏が米国のデータセンター事情について講演した(写真1)。

 「米国でデータセンターの電力問題がクローズアップされたのは,2007年に米国環境保護庁(EPA)がデータセンターの電力消費に関する調査報告を公表してからだ」。岸本氏はこう切り出す。同庁によれば,2000年から2006年の間にデータセンターによる電力消費量は2倍に増加し,このまま何も対策を打たなければ2010年にはさらに2倍になるというのである。この報告が契機となり,IT各社はこぞって「グリーン・データセンター」をうたうようになった。

 とは言え,現在でもグリーン・データセンターの明確な定義はないという。「IBMは2007年から2008年にかけて,データセンターの処理能力当たりの電力消費量を大きく削減でき,グリーンITが大きく進んだと言っている。だが,ビジネスが拡大したので電力使用の総量は増えたと言うのだ。何をもってグリーンなのか,という定義があいまいだ」(岸本氏)。

 こうした背景から,データセンターの省電力性能を評価する指標への要求が強くなり,数々の指標が開発された。現在は,業界団体のグリーン・グリッドが提唱するPUE(電力使用効率)がよく使われているという。PUEは,データセンター全体の電力消費量を,サーバーなどのIT機器による電力消費量で割った値だ。値が小さいほど,電力効率に優れていることを示す。

 「データセンター間でPUEを競う動きが過熱している。マーケティング・ツールとして利用しようという業者の中には,PUEは絶対に1より小さい数値にはならないのに,0.8だと言って顧客に売り込もうとするところもある」と岸本氏は話す。

 PUEの値は,最先端の技術を駆使しても1.2以下を達成するのはかなり難しいと言われている。「これ以下の数値をうたう事業者があれば,測定方法を確認した方がいい」と岸本氏は指摘する。

 それでは,米国における優れたグリーン・データセンターはどこなのか。岸本氏は代表例として,マイクロソフト(PUE=1.22)とサン・マイクロシステムズ(同=1.28)を挙げる。ところが最近になって,グーグルが1.15という数値を出してきた。「おかしいと思って測定方法を確認したところ,グーグルはデータセンターのオフィス部分の電力消費量をどうも算入していないようだ。マイクロソフトとサンはオフィス部分も算入している」と岸本氏は説明する。いずれにせよ,米国の最先端のデータセンターの省電力性能が,PUE=1.2に近づいてきているのは間違いない。

データセンターは自然エネルギーを求めている

写真2●全米の自然災害によるハザード・マップ
地震,竜巻,ハリケーンの被害を受ける可能性が高い方から,赤・黄・緑に色分けしたもの。無色は最も被害を受けにくい地域。ワシントン州シアトル付近は,カリフォルニア州のシリコンバレー付近よりも比較的災害の影響が少ない。
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 「米国ではデータセンターを建設するとき,どこに建てるかという点に注目が集まる」と岸本氏。自然災害が少なく(写真2)土地が安く,安定した電力,それも再生可能エネルギーによる電力を供給できる場所に建設する動きが活発化しているという。

 特にワシントン州やオレゴン州などの水力発電所や原子力発電所の近くにデータセンターの建設が進んでいる。マイクロソフト,ヤフー,グーグルなどがあるシアトル付近は自然災害も比較的少なく,自然エネルギーを活用したデータセンターが数多く見られる。

 「米国は金融不況の波が吹き荒れているが,データセンターの業界は比較的堅調。バージニア州で1つ建設計画がストップしたことがニュースになったが,それ以外に中止になったという話は聞いていない」と岸本氏は現状を語る。逆に「資産を持たない経営」が加速する傾向にあり,データセンターを活用してコンピューティングをサービスとして購入しようとするところが,大企業の中にも増えているという。

 設計面での顕著な動きとしては,コンテナ型(モジュラー型)データセンターの普及を挙げる。マイクロソフトがシカゴに建設したデータセンターもコンテナ型だ。「巨大化するセンターの運用を合理化,自動化するために導入されており,人員カットしてコストを削減することが狙いだ。日本では立地的に大型化が難しく,技術者の解雇も難しいので,あまり普及しないのではないか」と岸本氏。米国でも,すべてがコンテナ型の巨大データセンターになるわけではなく,都市部を中心に既存の中小規模のデータセンターを改善して使うニーズもあるという。

 最後に岸本氏は日本のデータセンター事業者とIT担当者に向けてこう提言した。「自社のデータセンターのPUEを測ることが第一歩。実態を把握したうえで,ITと設備(ファシリティ)の両面で改善施策を打つことがポイントだ。PUEをはじめ,業界団体などが公表する評価方法に関する情報をチェックし,ベスト・プラクティスを自社に適用することが大切。省電力化は地道な改善の積み重ねであることを忘れてはならない」。