ドワンゴ顧問 慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授 夏野剛氏
ドワンゴ顧問 慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授 夏野剛氏
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 「12月4日に発表する次バージョンでは大幅な変更を行い,ニコニコ動画のイメージを大きく変える。現在の1000万会員から2000万人のメディアになるための構造的な変化を起こす」---ドワンゴ顧問 夏野剛氏は2008年11月11日,CNET Japan Innovation Conferrence 2008の講演でこう語った。

 NTTドコモでiモードの戦略策定責任者を務めた夏野氏は,2008年6月にドコモを退社。同年7月からドワンゴ顧問に就任,サーバーや回線の資金負担の重さから現在は赤字となっているニコニコ動画の「黒字化担当」を自称する。

20代の3人に1人が会員

 「普通の動画共有サイトのバリューは100%動画だが,ニコニコ動画の場合動画のバリューは50%で,50%はコメントの価値」。夏野氏は講演でニコニコ動画のメディアとしての魅力を訴えた。

 2006年12月にスタートしたニコニコ動画の会員は2008年10月31日で約980万人。「11月中には1000万人を超える」(夏野氏)。特に若年層に支持されており「20代の3人に1人はニコ動会員」と夏野氏は言う。日本の20代人口は1465万人だが,ニコニコ動画の20代会員は451万人いる。

 1日のユニークユーザーは230万人,動画再生は1日1900万回,1日260万コメント。「今,我々が日本で一番太い回線を引いているコンテンツ・プロバイダー」(夏野氏)。

現場にいる体験ができる1万人生放送

 「インターネットの常識に反する試みを始めている」と夏野氏は言う。ニコニコ生放送である。「ブロードキャスティングにインターネットは向かないというのが常識」だが,それをあえて行うことで「面白いことが起こっている」(夏野氏)。

 これまでに野球中継や音楽のライブ,記者会見などの1万人生中継を行った。例えば野球中継では球場に行っている雰囲気がインターネットで味わえるという。「球場で飛び交う野次のようにコメントが流れる。ランナー1,3塁でバッターが空振りしたときは画面が「アーーーーー」という書き込みで埋め尽くされた。『次はカーブ』などと解説する人もいる。テレビよりぜんぜん面白い」(夏野氏)。生放送がこんなに新たな価値を生むとは思わなかった,と夏野氏は述懐する。

主な政党の党首がチャンネルを開設

 秋葉原での麻生太郎氏の街頭演説会も生中継した。「政治家によるニコニコ動画利用も増えている。各党の党首がほぼひととおり揃った」(夏野氏)。麻生太郎氏,小沢一郎氏,福島瑞穂(福島みずほ)氏,志位和夫氏がニコニコ動画に公式チャンネルを開設している。

 最初にチャンネルを開設したのは共産党の志位和夫委員長ホームページである。きっかけは,志位氏の国会質問の動画を誰かニコニコ動画にアップしたことだ。フリーター問題などに関する志位氏の質問に賛同のコメントが集まった。「この動画によて共産党への若年層の入党者が増えたと聞いている」(夏野氏)。テレビ番組動画だったためニコニコ動画が通常通り削除したところ,共産党から「なぜ削除するんですか」という問い合わせが寄せられ,それをきっかけに志位和夫チャンネルが作られた。

 「ふだん国会中継なんか見ないが,『意外にいいこといってんジャン。がんばれ』などのコメントがあると,見てみようという気になる」(夏野氏)。

8万人のアンケートを5~6分で

 またニコニコ動画ではある時間に動画を見ている人に急にアンケートをとる「ニコ割アンケート」を行っている。麻生総裁が誕生した日,夜9時半にアンケートを行った。ニコニコ動画を見ていた20万人のうち8万人近くが回答した。

 「新聞の世論調査は固定電話に電話をかけて調査するが,今の若者は固定電話を持っておらず,回答者が高年齢に偏る懸念がある。ニコ割アンケートも若年層に偏る懸念があるが,麻生内閣の発足直後の支持率は40%で,他の世論調査と変わらなかった。ネットユーザーの偏った意見というのは当たらない」(夏野氏)。何より手間とコストがほとんどかからず,5~6分後には結果が出る。

 夏野氏は「ニコニコ動画は新製品の企画をユーザーに相談するツールにもなる。このメディアを生かして使っていただきたい」と訴えた。

2000万メディアになるための変化

 夏野氏はニコニコ動画の次期バージョンについても言及。「詳細はまだ話せないが,ニコニコ動画のイメージを大きく変える」ものになると述べた。ドワンゴは2008年12月4日にユーザーを招待しインターネットでの生中継も行う「ニコニコ大会議2008冬」の開催を予定しており,そこでニコニコ動画の新しいバージョンを発表することを予告している。「1000万会員から2000万会員メディアになるための,構造的な大きな変化を起こす」と夏野氏は新バージョンの狙いを語った。

 アニメやゲームを基層としたニコニコ動画の独特の文化は,熱狂的なファンを生んだ半面,その雰囲気になじめないユーザーにとってはハードルとなり,ユーザーの拡大を阻む恐れもあった。夏野氏が参加して初めてとなる大規模なバージョンアップは,このジレンマの解決を目指すものと見られる。

■変更履歴
浅生太郎氏としていましたが,麻生太郎氏です。また志井和夫書記長としていましたが,志位和夫委員長です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/11/11 22:05]