総務省は2008年11月7日,3.9世代(3.9G)移動通信システムの導入に向けた免許方針の参考にするため,公開ヒアリングを開催した。携帯電話事業者4社の戦略が大きく違うことがあらためて確認された。

 意見陳述に参加したのは,NTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイル,イー・モバイルの携帯電話事業者4社。有識者として,上智大学理工学部の服部武教授,東京工業大学院理工学研究科の酒井義則教授,慶應義塾大学環境情報学部の徳田英幸教授,野村総合研究所の北俊一上級コンサルタントが出席した。なお今回の公開ヒアリングは,アイピーモバイルが返上した2GHz TDD方式の移動通信システムも対象としていたが,意見陳述を希望する事業者は現れなかった(関連記事)。

 3.9Gシステムの導入に向けて総務省は,LTE(long term evolution)やUMB(ultra mobile broadband)などの技術的条件をほぼ固めている(関連記事)。冒頭,総務省の竹内芳明移動通信課長が「(現在,第2世代携帯電話が利用しており2010年3月末に利用を終える)1.5GHz帯から3.9Gの導入を広げていきたい」という考えを示した。形態4社は,各社の事情を反映し,導入システムや利用周波数帯において戦略が大きく分かれた。

ドコモはLTEを2010年開始,2GHz帯での導入を予定

写真1●NTTドコモの加藤薫取締役常務執行役員 経営企画部長
写真1●NTTドコモの加藤薫取締役常務執行役員 経営企画部長
 最初にNTTドコモ(写真1)は,導入システムと開始時期について「LTEを世界の先頭集団に合わせて2010年に開始したい」(NTTドコモの尾上誠蔵執行役員研究開発推進部長)とした。周波数帯としては「既存設備を有効活用できる点とグローバルなバンドという点,早期の導入を図れるという点から,2GHz帯の5MHz幅から始めたい。その後,徐々に帯域幅を広げていく」と説明した。

写真2●NTTドコモの導入計画
写真2●NTTドコモの導入計画
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 追加割り当ての候補となる1.5GHz帯については,「エリア展開に過度の制約を加えずに,高トラフィック地域の対策として使用することが望ましい」(同)とし,二つの活用シナリオ案を示した(写真2)。一つは2011年以降に1.5GHz帯にLTEを導入していく案,もう一つは2010年の段階でまずは既存の3Gトラフィックの逃がし先として1.5GHz帯を利用し,その後徐々にLTEを導入していくという案だ。周波数幅としては「最大性能が得られる20MHz幅が望ましい」(同)としつつも,複数事業者が競合する場合は「少なくとも10MHz幅を割り当てるべき」と一定の譲歩をする考えも見せた。

 もっとも同社は1.5GHz帯へのLTE導入の難しさも説明。尾上部長は「1.5GHz帯はIMT-2000プランバンドではないため,装置の開発・調達が少なくとも2010年から1年は遅れる」とし,開始時期に十分な期間が与えられるべきとした。

KDDIもLTE採用を正式表明,2012年以降に1.5GHz帯での展開を希望

写真3●KDDIの伊藤泰彦代表取締役執行役員副社長
写真3●KDDIの伊藤泰彦代表取締役執行役員副社長
 続いてKDDIは,公式の場では初めて3.9GシステムとしてLTEの採用を明言。「コストや国際動向などからLTEの採用を決めた。これまではインフラで勝負してきたが,3.9Gではどの技術もOFDMAを採用するので変わらない。これからはサービス競争になる」(KDDIの伊藤泰彦代表取締役執行役員副社長,写真3)という考えを示した。

写真4●KDDIの導入計画
写真4●KDDIの導入計画
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 導入時期について,「トラフィック増の予測などから,2012年ごろには導入したい」(同)と説明。利用周波数帯に関して「当社が持つ2GHz帯は,すぐ下をPHSが利用しているので干渉から5MHz幅しか利用できない。800MHz帯も再編の最中なので1.5GHz帯を使わざるを得ない」(同)と語り,1.5GHz帯の割り当てを強く希望した(写真4)。帯域幅は「高速ブロードバンドに対応するため,10MHz幅を一つの単位とすべき」とした。

 1.5GHz帯を利用せざるを得ないとした同社だが,NTTドコモと同様に機器の開発・調達には「少なくとも2年,検証も含めると3年はかかる」(同)と語る。