「モバイル向けサイトの浮沈は“使いやすさ”が鍵を握る。様々な制約がある中で,ユーザーにとってそれぞれ最適な顧客体験を提供するには,技術や環境の変化に対して迅速に対応すべき」---。アマゾンジャパン ディレクターオンライントラフィックのかせ川謙氏(写真1)は2008年11月5日,「NET Marketing Forum Fall 2008」で講演し,巨大ECサイトAmazon.co.jpの携帯向けサイト「Amazonモバイル」の根底に流れる設計思想を解説した。
講演の冒頭でかせ川氏は「ビジョンそのものはパソコン向けもモバイル向けも同じ」とし,各国の「Amazon」の基本ポリシーとなる3カ条を紹介した。「品揃え」「利便性」「低価格」である。その源流に当たる米Amazon.comの創業者Jeff Bezos CEOがペーパー・ナプキンに走り書きしたというメモ(写真2)を披露しながら,「絶え間ないイノベーションを織り込むことでユーザーに価値ある体験を味わってもらい,トラフィックを増やす。ユーザー数の増加とともに商品の調達力や価格交渉力が上がり,サイトの品揃えが良くなる。それがまたユーザーの体験に価格や利便性の面でフィードバックされ,顧客の満足につながる。この好循環で『規模の経済』を実現するのが基本的なビジネスモデル」(同氏)とした。
利便性の追求が低価格化と豊富な品揃えを後押し
三つの基本原則はパソコンもモバイルも同じだが,アプローチの手法は異なる。3原則のうち「利便性」の実現は,ユーザー・インタフェースの設計がその多くを占めるからだ。パソコンに比べれば小さい画面サイズ,テン・キーが基本の入力デバイス,Mobile Edyなどモバイル向けの決済手段。それぞれの要素を念頭に入れたサイト・デザインが欠かせない。
デバイスとして見ると「パソコンと同等のサービスを提供するのが大目標だが,画面の大きさなどさまざまな制約がある。その制約との兼ね合いで適さないサービスを落としつつ,モバイルならではのサービスを追加する必要がある」(かせ川氏)。
かせ川氏はAmazonモバイルの例として,CDや家電など一部商品のバーコードを撮影するとAmazon.co.jpの該当商品のページにアクセスできる「スキャンサーチ」(写真3),商品名や著者名などを記したメールを送ると該当ページのURLがメールで送られてくる「モバイルメール検索」,NTTドコモのiモード端末向けプッシュ配信「iチャネル」への情報配信を挙げた。
時代とともに変わる「使いやすさ」
以上のようなサイトデザインの元で運営されているAmazonモバイル・ユーザー像は以下のようなものだ。「年齢層は10~20代が6~7割を占める。購買行動は平均単価・購入頻度ともパソコン・ユーザーを上回る。CDやDVD,ビデオゲームといったエンターテイメント系の商品を特に多く購入する傾向がある」(かせ川氏)。
一見して優良顧客として受け取れるモバイル・ユーザーだが,かせ川氏は「使いやすさは時代とともに変わる。携帯電話の世界は特にそうだ」と釘を刺す。続いて絶えずサイトをリニューアルする重要性を指摘し,「3Gおよびパケット利用料定額制の普及,そしてFlashコンテンツの浸透といった技術動向や周辺環境の変化についていかなければおいていかれる」(かせ川氏)として講演を終えた。