講演する桑田真澄氏
講演する桑田真澄氏
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 本当のチームワークとは、個を磨きながら、同じ目標に向かってそれぞれのやり方で近づいていく。それが何よりも重要であるということは、野球人も企業人も同じ---。

 サイボウズは2008年10月17日,「ITpro EXPO 2008 Autumn」の自社展示ブースにおいて、「ITpro EXPOイチ受けたい授業」を開催。「運動」をテーマとした講演枠で、「個人プレイ?チームプレイ!スポーツにみるチームワーク~最強のチームワーク“KKコンビ”の黄金伝説に迫る~」と題し、元メジャーリーガーの桑田真澄氏を迎えた講演会を実施した。

 同社が約100人もの候補者から桑田氏を選んだ理由は、元オリックス選手の清原和博氏とともに、野球界の一時代の人気を築き上げた「球界のリーダー的存在」(サイボウズ広報)であるためだ。また、多数の後輩から親しまれ、テレビや雑誌などのさまざまな情報媒体でも「チームワーク」の必要性を訴えている点も大きな選出理由だった。グループウエアの開発・販売となる同社のイメージにも合致する。

 2008年3月26日、桑田氏は「やれることはすべてやったので悔いはない」という心境に至り、野球選手人生の幕を閉じた。桑田氏のこれまでの26年間を支えてきたのは、チームワークだった。

 桑田氏の考えるチームワークには2つある。1つ目が支え合いの精神だ。

 「人間は何をするにも、一人では生きていけません。この世にたった一つしかない人間それぞれの個性を生かすには、それぞれで支え合うチームワークが必要です」(桑田氏)。

 もう1つ重要なチームワークの側面は、個を磨くということ。一見、自己研鑽は個人プレーにも映るが、そうではないという。

 「仲良し軍団はチームワークと呼べません。ユニフォームを着ているときは、勝利という仲間たちとの共通目標の下、仲間のために投げます。しかし、ユニフォームを脱いだら、個を鍛えるために努力をします。いつでもどこでも『仲間のために』を貫くことは、個の成長を生まず、結果として本当のチームワークにはならないのです」(同)

 桑田氏は最終的な共通目標を持つチームのそれぞれが、それぞれの個を磨きながら、時には励ましあい、叱咤激励し、結果としてチーム全体の総合力が向上するような取り組みを、本当のチームワークであると考えているのだ。

 また、「企業人だった経験はありませんが」と前置きをした上で、桑田氏は「野球人も企業人も本質的には一緒なのではないでしょうか」とも問いかけた。「野球は人生と同じ。全く同じ一日が再び訪れることがないように、野球も一試合として同じ内容の試合は存在しません」(同)。野球も人生も本質的に人と人同士の営みなのだから、チームワークが重要であるという点は、同じではないかというのだ。

 桑田氏は平和主義者で、極力、人と喧嘩をすることはないという。しかし、自分のやりたいことを最終的に組織の中で通すために、「あらゆる手段を使った」(同)と至って企業人的なやり取りの経験もあることを明かした。

 本当のチームワークを貫くために自己研鑽を続けてきた桑田氏だが、これまでの歩みを振り返り、「挫折だらけの人生だった」(同)と振り返る。

 「僕、よくマウンドで独り言をつぶやいていたでしょう。あれは達磨さんが話しかけてくるんですよ。『転んだっていい。起き上がればいいんだから』ってね。挫折や失敗は山ほど経験してきたけれど、本当の失敗は、起き上がらないことだと思うんです。僕が起き上がり続けてきた原動力となったのは、さまざまな苦難やコンプレックスを乗り越えるために必要だった努力なんです。大きな怪我をして引退を覚悟して泣いた夜があっても、その翌朝には『どうやってリハビリしていち早くマウンドに上がろうか』という思考に変わっていました。どんな状況下でも、起き上がるための努力をすればいいのです」(同)

 ITとのかかわりについては、「僕、パソコンとか携帯電話は冷たいイメージがあって、嫌いだったんです。でも、時にはメールで気持ちを伝えた方がいいときもあるんですよね。だから、最近では対面で話したり電話したり、メールをしたりと、さまざまなコミュニケーション手段を使っています。重要なことは、時代に即したコミュニケーション手段の使い分けができるかどうかだと思います」(同)とした。

 最後に、「今後は指導者として、よりよい野球の指導者としてのあり方を追求し、その支持者を増やしていきたい」と語り、「26年間、暖かい声援をいただけたことに心からお礼を言います」と締めくくった。