写真1●日経コンピュータの中田敦記者
写真1●日経コンピュータの中田敦記者
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 「データセンターを安く高密度に展開し,リソースを遊ばせない事業者がクラウド時代の勝者になる」――。「ITpro EXPO 2008 Autumn」の主催者企画「データセンター・ショーケース」では,日経コンピュータの中田敦記者がクラウド・コンピューティングの最新事情について講演(写真1)。3カ月に及ぶ米国取材を踏まえ,クラウド・コンピューティングという大きな潮流の本質を「データセンターにおける規模の経済革命」と表現した。

 データセンターにおける規模の経済革命とは,分散したWebのコンピューティング資源をデータセンターに物理集中させることで,クラウドの利用者側(ユーザー)と提供者側の双方にとって「コスト面でも人的リソースの面でも圧倒的に効率化される」構図を表現したもの。

 ユーザーは膨大なリソースを持つクラウドを利用することで「無駄なIT投資をなくせる。将来の負荷やデータ量の上昇を見込んで長く使えるハードウエアを選ぶと,自ずと無駄な投資が生まれ企業にとって重荷になる」(中田記者)。提供者側は規模を追求することで「冷却,管理,ネットワーク運用など,様々な側面でコストを引き下げることができる」とした。

 講演で中田記者は,米国のデータセンター事情に焦点を絞り,熾烈な拡張競争をレポート。これまでのデータセンターとクラウドの基盤となるデータセンターとの違い,ひいては米国と国内との違いが端的に表れている部分として,「エアコン使用」の有無や「水冷型コンテナ・データセンター」の有無を挙げた。

 エアコン使用の有無は,データセンター全体の消費電力をIT機器(サーバーやネットワーク機器など)の消費電力で割った値(PUE)を大きく左右する。「PUEの値は日本の標準的なデータセンターが2.3~2.5。2008年4月稼働の日本IBM幕張データセンターが1.8。そして日立製作所の最新データセンターは1.6を目標に構築を進めている。ところがGoogleのデータセンターは,6カ所の平均で1.21,あるセンターは1.13に達している。エアコンを使うようでは,こんな数字は出ない」とした。

米MSのDC1個所で約30万サーバーを集積

写真2●米Rackable Systemsの水冷型コンテナ・データセンターの内部
写真2●米Rackable Systemsの水冷型コンテナ・データセンターの内部
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 もう一つの水冷型コンテナ・データセンターは,貨物用のコンテナに1000台を超える省スペース型ラックマウント・サーバーを据え付け,冷却水をコンテナ内のラジエータに循環させるタイプの,モジュール状のデータセンターである(写真2)。単体でデータセンターとして機能するばかりか,決まった大きさのコンテナを並べて電源と冷却水を供給するだけで巨大データセンターを迅速に展開できる。

 中田記者は米Rackable Systemsへの取材でコンテナ型データセンターに“潜入”した体験を披露。「コンテナの中に入ると細い通路の左右に1400台のサーバーがある。冷却は水冷でエアコンはなく,CPUファンさえ省いて効率を追求している。輸送と設置のコストも低く,トレーラーで運んで電源と水を供給すればデータセンターとして稼働する」と米国のデータセンターにおける高集積・高効率への取り組みの実態を紹介した。

 Microsoftは,米Rackable Systemsの水冷型コンテナ・データセンター220台によるデータセンターをシカゴに構築しているという。「1台のコンテナが1400台のサーバーを内蔵し,コンテナ220台で推定30万8000台になる。国内のPCサーバーの出荷台数は約55万台(2007年)だから,その5割を超える台数のサーバーがMicrosoftの一つのデータセンターにある計算だ。しかも,その建屋は平屋と言っても差し支えないほどシンプルで,効率を追求した構造になっている」と,想像を超えた規模の実像を語った。

「OS in the Sky」が米Amazon.comのゴール

写真3●米Amazon.comの狙いは「OS in the Sky」の実現
写真3●米Amazon.comの狙いは「OS in the Sky」の実現
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 講演のクライマックスは,仮想マシン・ホスティング・サービス「EC2」に象徴される米Amazon.comの戦略に対する考察。EC2は今や,クラウド・コンピューティングの代名詞の一つにもなっている。「Amazon.comはEC2を片手間でやっているのではない。Amazon.com幹部への取材で『Amazon.comは何を目指すのか』と聞いたら,返ってきた答えは『OS in the Sky』だった」という(写真3)。

 それは単にPaaS(Platform as a Service)としての目標を語っているだけではない。「EC2のトラフィックは,ECサイトであるAmazon.comのそれを超えている。ユーザーの増加がデータセンターの拡張を促し,データセンターが巨大化すればするほど,通信事業者などとの価格交渉が有利になる。ひいてはAmazon.comのコストも下がる。データセンターの規模が次の時代の勝者を決める」とクラウド・コンピューティングの必然性を喝破した。