写真1●野村総合研究所の藤沼彰久会長兼社長
写真1●野村総合研究所の藤沼彰久会長兼社長
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 野村総合研究所(NRI)の藤沼彰久会長兼社長は、ITpro EXPO 2008 Autumnで「サービスイノベーション時代の情報システム~変わるものと変わらぬもの~」と題して講演した(写真1)。「変わるもの」とは、IT技術のこと。中でも、「“エクスペリエンステクノロジー”と“クラウドコンピューティング”の二つが、今後5年、10年のスパンで情報システムをけん引していく」と、藤沼氏は予測する。こうしたIT技術の変革が起こる一方で、「“ITマネジメントのあり方”は変わらず、重要性は増すばかりだ」と指摘した。

 「エクスペリエンステクノロジー」について、藤沼氏は「顧客が“いい思いをした”という経験をITで実現するための技術だ」と説明する。直訳すると「経験創出技術」だという。具体的には、ユーザーインタフェースの技術や、サービス提供の仕組みを指す言葉のようだ。ユーザーインタフェースやサービス提供の仕組みを改善することで、顧客の使い勝手や満足度を高めていく。藤沼氏は、「今後は、ユーザーの経験がどうあるべきかを最初に考えてから、機能やプロセス、データの持ち方などを検討すべきだ」と話す。

ネットが普及し顧客が発信した情報が瞬く間に広がる

 情報システムに「エクスペリエンステクノロジー」を取り入れる背景には、「インターネットが広く普及したことで、顧客の評判が企業活動に大きな影響を与えるようになった」ことがある。インターネットが普及する以前、情報を発信するのは常に企業だった。それが、ブロードバンドの普及に伴って価格コムのようなクチコミサイトが登場。こうした仲介業者が情報を収集し、発信する形態へと変化していった。そしてブログが普及した現在、情報を発信するのは顧客自身になった。顧客が発信した情報は、企業にとって好ましい内容であろうがなかろうが、インターネットを通じて瞬く間に広がっていく。

写真2●顧客経験価値とは
写真2●顧客経験価値とは
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 こうした現在の状況に企業が対応していくには、「顧客が“いい思いをした”と感じられるようなインタフェースや仕組みでサービスを提供する必要がある」と、藤沼氏は指摘する。同氏は一例としてコーヒーの経験価値を挙げた(写真2)。「街の喫茶店でコーヒーを飲むと1杯当たり50円から500円で済むが、ホテルや高級レストランで飲むと500円から1500円もかかる。それでも顧客がお金を払うのは“いい思いをした”という経験があるからだ」。ITを使ったサービス提供でも、顧客がまた使いたくなるようなインタフェースや仕組みを整えることが重要になる。

クラウドはサービスレベルなどに不安が

 もう一つの変わるものである「クラウドコンピューティング」について、藤沼氏は「利便性とサービスレベルはトレードオフであることを、しっかりと認識すべき」と注意を促した。クラウドコンピューティングを活用することで、企業はIT資産を持つことなくシステムを開発・運用することが可能になる。ITリソースの柔軟な配分やコスト削減を実現できる。

 一方、現状のクラウドコンピューティングにはサービスレベルの保証やサポートサービスが備わっていない。開発環境を提供するクラウドコンピューティングのサービスでは、開発言語やデータベースが独自形式であることが多い。企業システムとしては、信頼性や品質面での課題が残っているのである。このため、藤沼氏は「クラウドコンピューティングを活用する際には、コストやセキュリティポリシー、情報戦略に照らし合わせた見極めが必要になるだろう」と予測する。

 「ITマネジメントのあり方は変わらない」とした藤沼氏は、「情報システムの利用者はますます増加し、それに伴って重要性はさらに増しているからだ」と、その理由を説明する。同氏は「システム開発プロジェクトの失敗事例の大半は、完成したシステムに対する品質への不満に原因がある」という調査結果を示し、「品質を左右するのはプロジェクト管理。企業のIT部門は今後も継続して、プロジェクト管理を強化していかなければならない」とした。