NTTデータ代表取締役副社長執行役員 重木昭信氏
NTTデータ代表取締役副社長執行役員 重木昭信氏
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 IT業界において今,必要とされている人材の「条件」とは何か---。

 2008年10月17日,「ITpro EXPO 2008 Autumn」の特別講演において「国際競争を担うIT人材育成への提言」と題し,NTTデータ代表取締役副社長執行役員の重木昭信氏が講演した。

 つい先日,重木氏はある大学の教授と情報交換をする機会があった。そこで話題になったのは,いわゆる「ゆとり教育」を受けてきた世代が大学に入学し始めているということ。この教授は「高校レベルの内容を補修する必要がある学生もいる」と嘆いていたという。

 重木氏は「対岸の火事」程度に聞いていたが,この教授は続けて「後もう少しでこうした学生たちが企業に入ってくる」と指摘。少子高齢化などで人材確保が難しくなっている昨今,ここに「ゆとり世代と,いかに向き合うのか」という問題も重なり,人材問題の深刻さを改めて認識するに至ったという。

 市場の成長性という側面においては,情報通信産業の成長は目覚しい。「日本の経済成長を支えている状況が続いている」(重木氏)。ただ,人材に視点を移すと,1980年代以降,専門職の人材不足が目立ってきているという。

 その背景にあるのは,ITの活用方法の変化だ。稼働当初は単独のシステムとして運用したものが,ネットワーク技術の進化とコンピュータ端末の普及などにより,複雑に連携するシステムになってきた。企業の一部門のものだったシステムは,複数部門,組織全体,特定組織間,不特定利用者との連携が前提となるシステムへと変化を遂げた。業務の効率化が主だったシステムは,引き続きその側面を担う一方で,新たな価値創出を実現するための手段としての存在感も高まってきている。

 「これまではITを管理することが目的だったが,経営をITで管理することが重要になってきている。つまり,ITは手段であることを明確にすることが重要ということだ。したがって,ITをいかに活用できるかに答えられる人が,今求められる人材である」(重木氏)。

 では,ITをいかに活用するかに答えられる人材の条件は何か。重木氏は「コンピュータだけを知っていてもだめ。社会そのものに対する理解も深く,幅広い素養を持った人材が必要になってきている」と指摘。つまり,人間の世界,コンピュータの世界,自然界をつなぐ「通訳」とも呼べる役割が必要だとした。

 「最近ではGoogleが発表したストリートビューのように,過去になかったサービスの開発に果敢に挑戦することや,何を作るべきかを考えられる先見性が欠かせない」(同)。

 日本の現状はどうか。重木氏によると,9割以上の企業が人材不足と考えており,さらにどういう人材が不足しているかについて見てみると,上級レベルの技術者が特に不足しているという。

 また,国内において情報産業は“成長産業”との認識があるものの,学生からの人気は低く,特に工学部の人気低下は深刻な状況にあるという。一方,中国やインドでは国内の需要以上に優秀な技術者を輩出しており,彼ら彼女らは海外でも目覚しい活躍をしていると指摘した。

 こうした状況下で,国内の教育機関は従来,基礎的な学習をエンジニアに対して行ってきた。しかし,これからはより実践的な応用学習が必要であるとし,特に大学院での実践的な教育の必要性を訴えた。