写真●PwCアドバイザリー ディレクターの村田達紀氏
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 「IFRSの導入は,企業にとって資金調達や経営管理の面で大きな便益を享受する好機だ」。2008年10月16日,ITpro EXPO 2008 AutumnのCFO(最高財務責任者)ステージに登壇したPwCアドバイザリーの村田達紀ディレクターは,2011年6月までに国内会計基準に取り込まれるIFRS(国際財務報告基準)について,「日本企業の情報システム部門はどう対応するべきか」を解説した(写真)。

 IFRSとは次の1)~3)の総称で,日本と米国以外の主要経済国では浸透している国際的な会計基準だ。
1)国際会計基準委員会(IASC)が公表した「国際会計基準(IAS)」
2)国際会計基準審議会(IASB)が公表した「国際財務報告基準(狭義のIFRS)」
3)解釈指針委員会(SIC)および国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)が公表した解釈指針

 日本は2011年6月までに,国内の会計基準とIFRSの差異を解消し,共通化すること(コンバージェンス)に合意している。今期の「棚卸資産の低価法」や「四半期財務諸表」の導入は,このコンバージェンスの一環だ。早ければ,2012年3月期以降の連結財務諸表にIFRSの選択適用が認められる。2012年3月期をIFRSへの移行初年度とすると,比較情報として2011年3月期の決算でIFRS財務諸表を作成する必要がある。さらに,その前年である2010年3月期をリハーサル年度とすると,同会計年度が始まる2009年4月までにシステムなどの準備を整えなければならない。

 村田達紀氏は,IFRSコンバージェンスに4つの問題点を指摘した。まず,税制など国内法との調整。次に,IFRSのプリンシプル・ベース(原則主義)の解釈。プリンシプル・ベースでは子会社,関連会社の解釈が日本の現行基準と異なってくる。3つ目に,会計システムなどの変更・改修コスト。最後に,IFRSの時価主義会計への対応だ。

 これらの課題を解決し,IFRSを導入することは企業にとって大きな負担となる。しかし,同氏は「これを好機と捉え,基準対応だけに留まらず積極的に対応することは,企業に大きな便益をもたらす」と語る。具体的には「資金調達コストの低減」,「内部統制コストの低減」,「経営管理制度の高度化」の3つのメリットが考えられるという。

 資金調達コストの低減とは,IFRSベースの財務諸表を公開することで,海外市場での資金調達が容易になること。内部統制コストの低減は,業務システムをグローバルに標準化し経理業務プロセスを統一することで実現される。

 経営管理制度の高度化は,IFRSで要求されるマネジメント・アプローチによりもたらされる。マネジメント・アプローチとは,経営者が実際に予算管理,収益管理などを行う事業セグメント区分での業績開示方法。投資家に,経営者と同じ視点での業績評価指標を提供することを目的とした制度だが,企業にとっては,グローバルで統一された業績データ分析が可能になるとともに,事業戦略の管理責任を明確化できるなどのメリットがあるという。

 最後に同氏は,前述のIFRS導入メリットを享受するために,企業の情報システム部門がとるべき対応について説明した。情報システムへの影響が大きい点は,「連結範囲」,「収益認識」,「研究開発費」の3つと同氏は分析する。

 まず,連結範囲の問題では,連結対象子会社の変化に対応する臨機応変な連結システムの構築が必要となる。次に,収益認識に関しては,売上計上タイミングの現行基準との相違が予想される。そのため,売上の種類ごとに現状の計上パターンを洗い出し,再定義する必要がある。さらに,現行の企業会計原則では一括処理されている研究開発費が,IFRSでは研究費と開発費に分類され,開発費は資産に計上される。

 これらの問題に対応するには現行システムの大規模な変更が必要となるため,IFRS導入で「情報システム部門が果たすべき役割は非常に大きい」(同氏)という。