写真1●日本ヒューレット・パッカード執行役員の松本光吉氏
写真1●日本ヒューレット・パッカード執行役員の松本光吉氏
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 「これまでシン・クライアントは,コストやセキュリティ・リスクの削減といった『守り』のために導入されていた。最近は,ビジネスの拡大のような『攻め』のためにシン・クライアントを導入する企業が増えている」。日本ヒューレット・パッカード(HP)執行役員の松本光吉氏(写真1)は2008年10月16日,ITpro EXPO 2008 Autumnの講演でこのように語った。

 ユーザーが使用するデータもプログラムもすべてサーバーが管理し,クライアントには画面だけを表示するシン・クライアント・ソリューションは,ユーザー環境を統一することによる運用コストの低減や,データを一元管理することによるセキュリティ管理などを目的として,大企業を中心に急速に普及し出している。ただし,コスト削減やセキュリティ管理は,IT部門にとってはある意味「守りの施策」である。これに対して日本HPの松本氏は,「シン・クライアントは守りだけのソリューションではない」と強調する。

 「ユーザーが利用するサービスの水準を向上させたり,ビジネスの成長に寄与したり,組織改編や拠点移動などに迅速に対応したりするような『攻め』の施策にも,シン・クライアントは活用できる」と力説した松本氏は,「攻めのシン・クライアント導入」を果たした事例をいくつか紹介した。

わずか3カ月でコールセンターを新設

 例えば,「スカパー!」のコールセンター業務を担当するデータネットワークセンターでは,視聴者急増に対応するために新しいコールセンター拠点を3カ月という短期間で開設する必要に迫られ,シン・クライアントを採用したという。「同社ではそれまで,自社ビルでコールセンターを運用していたが,新規のコールセンターは同じセキュリティ水準を維持することが難しい社外に設けることになった。また,3カ月間で新しいアプリケーション・サーバーを用意することも不可能だった。そこで,既存のアプリケーションがそのまま運用可能で,セキュリティ・レベルも維持できるシン・クライアント・ソリューションが選ばれた」(松本氏)。

 また,アパレル会社のニューヨーカーでは,直営店とフランチャイズ・チェーン店を合わせて250店舗で運用する店舗端末を,従来のパソコンからシン・クライアントに置き換えた。同社がシン・クライアントを採用した目的は,「メンテナンス不要のシン・クライアントを採用することで,店舗スタッフを本業に専念させること」(松本氏)だった。ただそれ以外にも「従来は,売上データや顧客データなどを,本部のデータセンターから店舗のパソコンにダウンロードする必要があり,この作業にとても時間がかかっていた。シン・クライアントでは,これらのデータはダウンロードする必要が無く,画面情報だけを店舗に転送すればいいので,売上データなどの更新頻度が上がり,パフォーマンスが向上した」(同)という。サービス・レベルの向上効果もあったわけだ。

モバイルやグリーンITも実現

写真2●日本HPでは,ユーザー負荷に応じてブレードPCの電源を切るソフトウエアも用意している
写真2●日本HPでは,ユーザー負荷に応じてブレードPCの電源を切るソフトウエアも用意している
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 松本氏は,シン・クライアントには,ほかにも2つの「攻め」の効果があると指摘する。一つは「モバイル」で,シン・クライアントを利用すれば,セキュリティ水準を維持したまま社外でも業務データを利用できるようになると語る。

 また「消費電力削減」もシン・クライアント効果の1つだと語る。例えば,クライアントが使用するパソコンをデータセンターに集約する「ブレードPC」というソリューションを使えば,パソコンの冷却にかかるコストを効率化できる。また,ユーザーが使っていないときは,ブレードPCの電源を自動的にオフにすることも可能だ(写真2)。松本氏は「シン・クライアントは,パソコンを使うよりも消費電力量を60%は削減できる」と指摘した。