写真●ガートナー・ジャパンのソーシング担当リサーチディレクターである足立祐子氏
写真●ガートナー・ジャパンのソーシング担当リサーチディレクターである足立祐子氏
[画像のクリックで拡大表示]

 「オフショアリングに適したプロジェクトか,きっちり見極めた上で発注すること。それがオフショアリングを成功に導くコツだ」――。ITpro EXPO 2008 Autumnで,ガートナー・ジャパンのソーシング担当リサーチディレクターである足立祐子氏はこう強調した(写真)。「グローバル・アウトソーシングを展望する」と題したパネルセッションでのひとこまだ。

 足立リサーチディレクターのいう「グローバル・アウトソーシング」とは,中国やインドといった多様な国・地域から,最適なITスキルやリソースを最適なコストで調達する取り組みのこと。具体的には業務アプリケーションや組み込みソフトの開発などの,いわゆるオフショアリングを指す。

 ガートナーの調査によれば2007年,日本におけるオフショアリングの金額は2800億円だった。この数字だけ見れば「13兆円市場」といわれる国内のITサービス産業と比べてまだまだ小さい。だが大企業におけるオフショアリングの活用が2007年から急速に進んでいることもあり,実際には数字以上の大きなインパクトがあるという。「アメリカは,業務アプリケーション開発におけるオフショアリング実施率が40%に達している。日本も早晩この水準に達するだろう」(足立リサーチディレクター)。

 ユーザー企業にとってオフショアリングの最大の魅力は「人件費を大幅に抑えられるためプログラム開発費用を削減できる」という点だ。ただし足立リサーチディレクターは,「人件費の安さに目を向けるだけでは成果は得られない」と警鐘を鳴らす。

 一般に日本のITサービス会社と比べて生産性が低いことや,プロジェクト管理や現地とのコミュニケーションのためのコストがかさむことが原因だ。こうしたことから「開発規模が一定規模に満たないプロジェクトでは,コスト削減効果が見込めない」(足立リサーチディレクター)というわけだ。「オフショア先が中国企業なら40人月以上,インド企業なら100人月以上のプロジェクトかどうか」が,オフショアリングでコストを削減できるかどうかの一つの目安になるという。加えて,「発注元にも,要件を明確に定義するなど上流工程をきっちり固められる体制が求められる」(足立リサーチディレクター)。

 こうした注意点は,ITサービス会社でも同様だ。実際,自社で販売しているソフト開発のオフショアリングに成功している企業であっても,ユーザー企業から受託したシステムのオフショア開発では上流工程を明確に定義できず,失敗するケースも多いという。

 さらに足立リサーチディレクターは,国ごとの特色に適したプロジェクトを発注する必要性を説く。「中国では人件費を抑えつつ,それなりに高い技術力を持った人材を大量に確保できる。こうしたことから労働集約的なプロジェクトに向いている。インドは違う。SOA(サービス指向アーキテクチャ)分野や金融分野の技術に長けた人材が多く,新技術を取り入れたソリューションの開発に向く」(足立リサーチディレクター)。

 オフショアリングの成果を高めたい企業にとってのポイントはほかにもある。足立リサーチディレクターは「日本のオフショア先の8割を占める中国では,日本企業との仕事を安定的にこなせるスキルとノウハウを備えた企業と,そうでない企業への二極化が急速に進んでいる」と指摘する。こうした状況でオフショア先が開発するプログラムの品質を確保するためには,優秀な現地企業を選ぶ“目利き力”が重要になるという。