写真●展示会場内のビジネス・イノベーション・シアターで講演するマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンの横浜信一BTO日本代表
写真●展示会場内のビジネス・イノベーション・シアターで講演するマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンの横浜信一BTO日本代表
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 「戦略によって企業が差異化できる時代は終わった。今後は戦略の実行力が企業の競争優位性となる。その実行力を高めるために有効なのがITだ」――。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンでBTO(ビジネス・テクノロジー・オフィス)日本代表を務める横浜信一氏は2008年10月15日,東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2008 Autumn」の特別講演に登壇。自身の立場を,戦略コンサルタントでもなくITコンサルタントでもない「ビジネス・テクノロジー・コンサルタント」と表現し,「“ビジネスとITをつなげる”という考え方は,ビジネスとITを別物ととらえているという意味でウソである」と指摘した。

 同氏は,ビジネス・テクノロジーを「ビジネスとITの融合」と定義。講演では,ビジネス・テクノロジーという考え方がどのように実践されるのか,4つの事例を挙げて紹介した。

 1番目の実践例としては,IT投資の費用対効果を高めたい場合に,ビジネス・テクノロジーの立場からはどのようなアプローチをするべきなのかを解説した。従来の一般的なアプローチでは,まず役員レベルで事業戦略が協議され,その後,事業戦略に合致したIT戦略が策定される。IT投資の費用対効果の算出は,主に企業のシステム部門に委ねられてきた。一方,ビジネス・テクノロジーの視点では,「事業戦略イコールIT戦略」と考え,事業戦略策定の段階からIT投資について協議する。競争差異化を実現するためのIT投資という考え方をすれば,そのリターンの算出は非常に単純化され,費用対効果も向上する。ここで,戦略策定に当たる役員レベルが議論すべきことは,IT投資のコストやリスクではなく,「リターンを獲得するために必要な変革をやりきれるか」だという。

 2番目の実践例としては,戦略的なIT投資をする際に一般的な検討事項となる「新規システムへの投資か,既存システムへの投資か」という議題を取り上げた。「効果的なIT投資をするために,既存システムの保守や運用にかかる費用を削減し,新規システムへ投資をする」。こうした考え方を横浜氏は,「ビジネスとITを切り離した考え方」と指摘。ビジネス・テクノロジーの視点に立って戦略的なIT投資を議論する際には,「『新規・既存』ではなく,『会社を変える投資・会社を回す投資』に分類して考えるべき」との見解を述べた。

 実践例の3番目は,ビジネス・テクノロジーの視点から見た企業のITガバナンスについて。企業のIT機能を,デマンドIT(IT利用者),サプライIT(システム開発部),コーポレートIT(経営企画部)の3つに分類し,現状では,ITガバナンスのすべてがシステム開発部に任されている場合が多いと分析した。ITガバナンスをビジネス・テクノロジーの立場で実践するには,経営計画の策定,業務プロセス改革などの企画,IT投資の優先付けなどの各段階で,デマンドIT,サプライIT,コーポレートITの各機能が参加する必要があると強調した。
 
 4番目の実践例としては,ITコストを削減したいという相談に対して,ビジネス・テクノロジーの立場から回答した。「ビジネスとITの融合という視点に立てば,他社とのコスト比較は意味がない。ITコストの拡大が企業の競争優位性の源となっている場合は,コスト高でもよい」との見解である。

 最後に横浜氏は,企業の継続的成長のためには「ビジネス・テクノロジーを担うスタッフを育成することが重要だ」と述べ,講演を締めくくった。