ICTパネル討論会で話すアサヒビールの奥山博氏、カシオ計算機の矢澤篤志氏、大成ロテックの木内里美氏(左から)
ICTパネル討論会で話すアサヒビールの奥山博氏、カシオ計算機の矢澤篤志氏、大成ロテックの木内里美氏(左から)
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 IT人材不足や育成の難しさを嘆く前に、IT部門の地位向上が必要---。「ITpro EXPO 2008 Autumn」初日のICTパネル討論会では、ユーザー企業のIT部門長・CIO(最高情報責任者)の3人が登壇。「わが社の情報戦略とIT人材」というテーマで1時間にわたって議論した(写真)。アサヒビール・理事業務システム部長の奥山博氏、カシオ計算機・執行役員業務開発部長の矢澤篤志氏、大成ロテック・常勤監査役の木内里美氏の3人は、それぞれの立場から、ユーザー企業でITを活用した経営改革を推進するために必要なIT人材について語った。

 議論は多岐にわたったが、特にIT部門の社内での地位・位置付けについて様々な意見が出た。アサヒビールの奥山氏は、「当社に入社する人は(IT部門に行きたいのではなく)いい製品を作りたい、ブランド・マーケティングをしたいと考えている人が多い」と指摘した。アサヒビールは生産、物流、営業など社内の各ユーザー部門から30歳代半ばの優秀な人材をIT部門に引き抜いて、2~4年で戻す人事を運用している。IT部門に、各部門から選抜した精鋭を集める仕組みだ。「ユーザー部門長にとってナンバーワンの人材を手放したくないのは当然。なので、私は2番手ぐらいの人材に目を付けて、『IT部門全社を見渡す経験を身につけた上で戻します』と部門長を説得するようにしている」と説明した。「人材育成も重要だが、“育成”よりも“適性”が勝ることもよくある」と選抜の重要性を強調した。

 対照的に、カシオ計算機の矢澤氏は「IT部門の人材には細かな要件定義や実装に関連する部分など、固有のスキルが求められる。ユーザー部門から来て簡単に務まる仕事ではない」と主張した。矢澤氏は、経済産業省などが策定したITSS(ITスキル標準)、UISS(ユーザースキル標準)などをベースにIT部門独自の人事評価の仕組みを作り、継続的に育成する方針をとる。「ITの専門性を持つ人材が、分かりやすい言葉で社長や社内の部門長と話すのはなかなか大変なこと。プレゼンテーションの仕方などに慣れてもらうのもIT部門長としての私の役割だ」と強調した。

 一方で大成ロテックの木内氏は、最近まで大成建設でCIOを務めた経験について「在任中の7年半、現実のIT人材と経営側のニーズの間のギャップを感じつつ悪戦苦闘した」と話した。「昔のIT人材は事務の自動化を進めれば良かったが、1990年代後半ぐらいから『経営課題の解決』という新たなニーズが加わった。このギャップを埋めるには5年単位の長い時間がかかるはず。経営陣がIT部門の地位向上を図り、IT部門の仕事を認知して高く評価しない限り、人材は育たない」と総括した。