写真●講演する中澤進・ビジネスブレイン太田昭和会計システム研究所長
写真●講演する中澤進・ビジネスブレイン太田昭和会計システム研究所長
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 東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2008 Autumn」で講演したビジネスブレイン太田昭和会計システム研究所の中澤進所長は,「これからの経理・財務部門やIT部門は3つのグローバル化に対応しなければならない」と強調した。この講演では,最新の財務・会計の動向を解説するとともに,今後は会計情報が経営管理の基盤として重要な役割を果たすことを解説した。

 3つのグローバル化とは,(1)資本市場のグローバル化,(2)会計基準のグローバル化,(3)ビジネスのグローバル化---である。
 
 「資本市場のグローバル化」とは,国内の資本市場でも海外の投資家の目を意識する必要があるということだ。東京証券取引所の売買高の約6割が外国人投資家によるものだという。日本企業は海外企業と同じ尺度で投資判断を下されることになる。中澤所長は,外国人投資家にとって魅力的な企業になる必要があると話す。
 
 例えば,日本企業は株主配分の利益が5割であるのに対して米国企業では9割を超えているという。海外の投資家にとって,魅力のある企業になるためには,こうした違いをなくすとともに,有価証券報告書や内部統制報告書を通して外部に対して正確な情報開示を進めていく必要がある。情報開示や説明責任を果たすという部分でも,欧米の先進企業と同じ水準が求められているのだ。

 2つ目の「会計基準のグローバル化」とは,会計基準が国際的に収斂(しゅうれん)しつつある状況を指す。EUが国際財務報告基準(IFRS)を導入し,2008年8月には米国証券取引委員会(SEC)が米国上場企業によるIFRS適用を明確にした。
 
 日本もこれに対応しなければならず,工事進行基準など26項目の差異を解消しなけれならなくなった。証券取引法によって,四半期ごとに決算開示をしなければならなくなるなど,会計基準が世界的に標準化されるとともに,決算の早期化も求められるようになってきた。欧米企業に比べて,企業グループレベルでの連結経営に後れをとっている日本企業にとっては,大きな課題となっている。

 3つ目の「ビジネスのグローバル化」とは,日本企業が海外展開を活発化している状況のことだ。日本企業にかかわらず,現在では,コストが安い国・地域に生産拠点を設置し,購買能力の高い市場で販売を展開するというモデルが広がってきた。このようなモデルでは,グローバルで標準化・統合化する業務プロセスと,それぞれの国・地域の基準にあった業務プロセスを見極めて,業務改革を進めることが求められる。

 これら3つグローバル化に対応するためには,「変化とスピードに対応できる予算管理の仕組みが必要」だと中澤所長は強調する。経営者が立案した戦略を的確に実行するためには,戦略に基づいた仮説を素早く立案し,実行時には進ちょく度合いを常に把握できる仕組みが必要だという。1年を管理区分とした従来の会計システムには限界があるとも指摘する。具体的には「ローリング予算」と呼ばれるもので,5四半期分の予算を常に予測しながら修正を加えていく手法が有効だと話す。

 また中澤所長は,戦略と現場が表裏一体に動けるように,会計情報を基にした共通のKPI(重要業績評価指標)が必要だという。従来,ROE(自己資本利益率)など戦略に必要な指標と,不良在庫率といった現場活動で必要な指標にはつながりが薄かった。全社で共通したKPIを設定することで変化に早く対応できるようなるという。「グローバル化が進むにつれて,経理・財務部門や会計情報システムの役割はますます重要になる。経営者は早く重要性を気づくべきだ」と強調し講演を締めくくった。