写真●講演する大前研一ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長
写真●講演する大前研一ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長
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 2008年10月15日,東京ビッグサイトで開幕した「ITpro EXPO 2008 Autumn」。開幕式に続く基調講演に登壇した大前研一ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長は,世界経済の動きに大きな影響を与えつつあるICT(情報通信技術)の存在感,そしてその担い手であるICTのプロフェッショナルが進むべき方向性について語った。

 ICTが世界経済に与える影響の大きさがよく分かる例として,大前社長は米大統領予備選におけるオバマ候補の勝利,そしてサブプライム・ローン問題に端を発する金融危機を挙げた。オバマ候補の勝利の背景には,情報発信の手段として,クリントン候補,マケイン候補よりも積極的にインターネットを活用したことがあるという。

 サブプライム・ローン問題では,不安に駆られた預金者が資金を電子的手段で引き上げることにより,金融危機が瞬時に広がった。大前社長は「まさに21世紀型。サイバー社会の取り付け騒ぎは,コンピュータで電子的にお金を引き出すので,金融機関はすぐに出血多量で死んでしまう。1929年の大恐慌とは違う,言わばサイバーパニックだ」と表現する。

日本でICTのプロとして生き残るには

 次に大前社長が触れたのは,世界各国のソフト開発事情である。ことあるごとに世界各国のIT開発現場を取材するという大前社長は,インド企業が今後,組み込みソフト開発に乗り出すだろうとみる。

 「インドは米国企業,特に金融ユーザーからのBPO案件でキャンセルが相次ぎ,経済そのものが落ち込んでいるが,すでに次のターゲットとして組み込みソフト分野を考えている」という。この分野では,すでに中国が圧倒的な存在感を持っているが,インドもここを狙っているという。

 ロシアも無視できない存在だという。もともと技術レベルは高く,ロシア出身の技術者がインテルなどの米ハイテク企業で大活躍している。IT技術者人口も多く,情報系学科の卒業生は毎年10万人程度とインドに匹敵する規模だという。

 大前社長は「世界には,日本の半額以下の給料で働くエンジニアがたくさんいる。そんな状況下で,日本でICTのプロがなすべきことは,世界中のエンジニアを使いこなせる能力を磨くことしかない」と断言する。「顧客を深く理解し,世界中のエンジニアにシステムを開発してもらう。中国,インド,ロシアやその周辺,時にはフィリピンという選択肢もある。彼らを使う能力が日本にあればすごいことになると思う」(同)。

 しかし,日本人は使われるのは得意だが,使うのは苦手と言われてきた。その処方箋として大前社長が示したのは,「ある仕事をこなすのではなく,自分ならどうするか,なぜこれが必要なのか,と脳に汗をかきながら取り組むこと」である。

 最後に大前社長は満員の会場に一つの提案を投げた。「会社に帰ったら,周囲のさまざまな性別,年齢の人を巻き込んでブレーン・ストーミングをしてみてほしい」。テーマとして挙げたのは「Googleが自社のものだったら,今後どのようなサービスに発展させていきたいか」である。このように「自分だったらどうするか」を常に考えることが,格好の訓練になるという。