政府の知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」は2008年10月14日に第8回会合を開催した。今回の会合では,権利者団体や家電メーカーの業界団体など5団体を対象に,日本版フェアユースやインターネット上に流通する違法コンテンツ対策についてのヒアリングを実施した。

 日本版フェアユースについては,実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫運営委員が意見を述べた。椎名運営委員は,「調査会が早急に対応するべき課題として挙げられたものについて,個別に権利制限規定を設ける検討はまだ十分に行われていない」と指摘した。調査会は,研究開発に関する著作物利用の適法化やコンピューター・プログラムのリバース・エンジニアリングの適法化などを,早急に対応するべき課題としている。椎名運営委員は,フェアユースの導入は権利者への影響や権利者とのバランスの観点からも議論されるべきであるとして,「早急に対応すべき課題に一度立ち戻り,それらに関する個別の権利制限規定の導入について検討を行ったうえで,一般規定の導入について慎重な検討をお願いしたい」と要望した。一般規定とは,具体的な記述ではなく幅広い範囲を対象にできるような記述がされた規定のことだ。これを受けて調査会の委員からは,「(権利者との)バランスを図るからこそ一般規定という話が出てきた」(上野達弘・立教大学准教授)といった意見が出た。

 コンテンツの技術的な制限手段(例えばアクセスコントロールなど)の回避に対する規制の在り方に関しては,電子情報技術産業協会(JEITA)の亀井正博・著作権専門委員会委員長とコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の久保田裕専務理事がそれぞれ持論を述べた。JEITAの亀井委員長は,1999年の不正競争防止法改正の際に,「問題解決のための市場ルールづくりが利便性を損なったり,情報技術の進展を阻害したりすることがないよう配慮する」という考え方と,「規制を必要最小限にとどめる」という考え方が示されたと述べた。そのうえでこれらの二つの考え方について,「引き続き今日においても妥当する」と主張した。コンテンツの技術的な制限手段については,現行の法制度でどの程度対応できるかを適切に見極める必要があり,新たな法制度を検討する場合でも,「知る権利やほかの法律により許容されるべき行為への影響も考慮して,十分慎重に検討すべきである」とした。一方,ACCSの久保田専務理事はファイル交換ソフト「Winny」で約186万本の海賊版のゲームソフトが違法に流通しており,これによる被害相当額が約59億円に上ると報告した。そのうえで,著作権法などほかの法制度とのバランスを鑑みつつも,「実効性のある侵害対策などを担保し,著作権者などの権利を的確な保護を実現するため,さらなる法制度の見直しを強く要望する」とした。

 今回の会合では,「ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)の責任の在り方」もヒアリングのテーマになった。テレコムサービス協会の桑子博行・サービス倫理委員会委員長は,インターネット上で著作権侵害が発生した際にISPが負う損害賠償責任の対象範囲を見直すべきという意見に対して,「プロバイダ責任制限法の改正よりも,むしろ現行の枠組みの延長線上で各事業者の自主的な取り組みを広げることが現実的だ」と持論を述べた。ISP事業者は,現行の制度で十分の責任の明確化は達成できると考えている。権利者団体側の意見は日本レコード協会の高杉健二理事が述べた。高杉理事は,携帯電話機向け違法音楽配信の実態を報告したうえで,「一定のISPに対して,侵害行為を防止する技術的措置を合理的な範囲で講じることを義務付けて,この義務の履行をプロバイダ責任制限法による免責を受ける要件とすべき」と主張した。さらに違法に音楽をアップロードしている発信者の情報を権利者が入手しやすくするため,「発信者情報の開示請求手続きの簡素化を図るべき」と要望した。