NEC 第一コンピュータ事業本部 事業本部長の西川岳氏
NEC 第一コンピュータ事業本部 事業本部長の西川岳氏
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 「グリーンITの課題に対しては,万能な解決策があるわけではない。顧客企業ごとに異なる目標を達成するためには,やみくもで画一的な対応ではなく,効果を意識した対策が求められる」。グリーンITフォーラム 2008 AutumnでNEC 第一コンピュータ事業本部 事業本部長の西川岳氏は講演した。

 西川氏はグリーンITの課題に取り組む上で重要なことの1つに,現状の環境を調査して課題を把握するための「見える化」を挙げた。この「見える化」を実現するサービスとして,NECはサーバー・ルームの消費電力や温度・湿度を24時間監視する「センサー・ソリューション」,サーバー・ルーム内の温度やエア・フローを分析する「熱シミュレーション」を提供している。

 センサー・ソリューションでは,最大1万6384個のセンサーにより,サーバー・ルームの消費電力や温度・湿度を24時間監視する。センサーのデータはWebページに表示する。また,サーバー・ルームのレイアウト図と連携させることで,より直感的に理解できる。このサービスにより,個々のデータセンターの問題点を明確化できる。

 熱シミュレーションでは,サーバー・ルーム内のラックや空調機の配置条件を変えて温度やエア・フロー分布を可視化する。これにより,ラックの最適な配置や,空調機の最適位置を探し出し,冷却効率を向上させ,新たに設備投資する必要をなくす。実際にこのサービスを導入したある企業のサーバー・ルームでは,これまで6台の空調機を使っていたところを5台に減らすことに成功。さらに,ラックのレイアウトを最適化することで,すべてのラックの吸入温度を25度以下に抑えることができ,年間176MWhの消費電力が削減できたという。この削減量は,CO2に換算すると約60トンに当たる。

 また西川岳氏は,同社が「REAL IT COOL PROJECT」と題して「省電力プラットフォーム」,「省電力ソフトウエア」,および「省電力ファシリティ・サービス」の3つの領域で,IT環境の省電力化を推進する技術・製品開発に注力していることを紹介した。

 「省電力プラットフォーム」の取り組みとしては,同社が過去にメインフレームやスーパーコンピュータの開発で培った高密度実装と冷却技術を,サーバー製品やストレージ製品の省電力化,省スペース化,軽量化に応用する。このように開発されたサーバー製品「ECO CENTER」は,高効率電源の採用や冷却効率の向上により消費電力を最大55%削減,高密度実装設計により設置面積を50%削減,重量を57%削減した。

 現在開発中の「省電力制御ソフトウエア」としては,データセンターを構成する個々のハードウエアの省電力技術を制御し,システム全体を省エネ運転する製品が紹介された。このソフトウエアは,サーバーの稼働状況や電力使用量,温度分布を可視化する。この結果を見て,オペレータがデータセンターの運用ポリシーを指示。その後は,自動的に電力使用量を制御し,余剰サーバーの電源OFF,データセンター内のホットスポット(熱だまり)の解消といった操作が実行される。特に,ホットスポット解消の技術は「2009年には完成させたい」(西川氏)という。

 「省電力ファシリティ・サービス」としては,データセンターやサーバー・ルームの空調設備などの付帯設備に対し,既存設備の調査から設計,構築,運用までをトータルでサポートするサービスを準備中だという。省電力化に成功した実例として,金融業のある企業が紹介された。この企業では,サーバー台数の増加によるシステム運用コストを削減するために,仮想化技術によるサーバー統合を計画。効果的な統合が実現するように,計画段階で同社の「見える化」サービスを利用して,仮想サーバーの配置などを最適化した。この結果,100台以上に分散していたサーバーを,大型サーバー8台に集約することに成功し,運用コストが約14%削減された。同時に,消費電力は統合前の約4分の1に低減した。さらにシステムを簡素化したことにより,システム管理上のトラブルも減少したという。

 この成功事例から得られる教訓として,西川氏は「グリーンITに関しては,1つの企業内でも,経営,財務,システム管理など,部門ごとに解決すべき課題が異なる」と語り,まずは「見える化」による現状の課題を把握し,部門ごとへの効果を考慮した計画を立てることが重要だと強調した。そして,その計画を実現するために「同社は自社製品の省電力化を推進する」と締めくくった。