サントリー取締役 技術開発部長 環境部担当の小嶋幸次氏
サントリー取締役 技術開発部長 環境部担当の小嶋幸次氏
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 2008年10月14日,東京・赤坂で開催したグリーンITフォーラム2008 Autumnの基調講演にサントリー取締役 技術開発部長 環境部担当の小嶋幸次氏が登壇,「水と生きる」をコーポレート・メッセージに掲げて取り組んできた環境活動について紹介し,「不安定で先の見えない時代にこそ,地道に環境問題に取り組むことが企業価値を高めることにつながる」と力説した。

 最初に小嶋氏は,「サントリーの事業は水や農作物といった自然の恵みに支えられていることから,水のサステナビリティの実現を軸に,環境活動を展開している」と紹介。その活動は,(1)水を育む森を育成する水源涵養活動,(2)工場における水の有効利用と節水活動,(3)水をきれいにして自然に返すリサイクル活動の3つがあると説明した。

 (1)の水源涵養活動では,2003年から工場の水源にあたる場所を中心に,国の「法人の森林」制度を活用したり,自治体などと協働して「天然水の森」と名づけた水源涵養林の育成活動を全国8府県9カ所で展開してきた。2008年5月に竣工した鳥取県の「奥大山ブナの森工場」の天然水の森においても,「工場で汲み上げる地下水の量を涵養するために必要な森林面積を算出し,水源周辺の174ヘクタールに計画的な森林保全活動を行っている」(小嶋氏)。

 (2)の水の有効利用では,工場での水の循環利用や,カスケード利用(必要な水質に応じた多段階利用)を進めることで使用量削減を図ってきた。こうした取り組みの結果,水の使用原単位(製品1キロリットルあたりの水の使用量)は,1990年に比べて58%にまで減少しているという。

 同社では天然水の森を,環境教育の場としても活用している。「小学生を対象に,森と水をテーマにした体験学習を企画し,森の散策や自然体験などを通じて,水を育む森の仕組みや環境を守ることの大切さを伝えたい」と小嶋氏は狙いを語る。2004年3月に「天然水の森 阿蘇」が開校し,2006年には「阿蘇」と「白州」で宿泊型の「森と水の学校」が開設された。2008年には奥大山でも開校し,今年度は全国で約2000人が参加する予定だ。

 水のサステナビリティ以外の取り組みでは,工場での環境負荷低減活動をエコファクトリー活動として実施している。すべての工場において,地球温暖化防止,汚染防止,資源の保全,資源の循環利用という4テーマを設定し,それぞれの工場の地域性に合った取り組みを進めている。例えば鳥取の奥大山ブナの森工場では豪雪地帯という地域性を生かし,雪室を作ったり潜熱蓄熱材を使った設備を設置してエネルギー利用の効率化を図っている。

 ITを活用して企業活動の環境負荷を低減する取り組みとしては,同社が物流各社と構築を進めている統合配車システムがある。商品を配送するトラックの台数を削減し,空車で走る距離と時間をできるだけ短くするための配車計画を,トラックの走行情報を基にリアルタイムで算出して実行する。商品配送車だけでなく,空き瓶の回収車,家電などの他業界の物流会社とも連携し,配送の効率化を実現している。

 グリーンITの取り組みについては,2007年から具体的な目標を設定してIT機器の消費電力の削減に着手した。「全社における年間の電力消費量2億2300万kWhのうち,IT機器が占める比率はまだ3%と小さいが,今後急速に増えることが予想されるため機器ごとに目標を設定して削減に取り組んでいる」(小嶋氏)。例えばサーバーについては仮想化技術や高効率機器の導入によって,2008年は2007年に比べて消費電力を5%削減する目標を立てている。PCについては離席中のオートパワーオフ設定などで同20%削減を目指す。このほか,コンピュータ・センターでは熱解析とエアフロー解析を実施して空調の最適化を図るなどして,10%削減を見込んでいる。

 「今後もサントリーはものづくり企業として,製造部門を中心とした環境活動を徹底していく。しかし一企業でできることは限られており,今後はサプライチェーンや他業界との連携がますます重要になってくる。その実現に向けてはITを活用する場面が増えるだろう。昨今,景気は厳しい情報ばかりが流れてくるが,地道な環境活動が企業価値を高めるという信念の下,今後も取り組みを続けていく」。

■変更履歴
コーポレート・メッセージを「水とともに生きる」としていましたが、「水と生きる」でした。また,「森と水の学校」の今年度参加予定者を約5000人としていましたが,約2000人の間違いでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/10/14 20:55]