米グーグル 法務担当副社長 ジェネラル・カウンシル ケント・ウォーカー氏
米グーグル 法務担当副社長 ジェネラル・カウンシル ケント・ウォーカー氏
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 先月初めに公開されて以来,「これはすごい」,「でもプライバシーは大丈夫?」とさまざまな反響を呼んでいる「Googleストリートビュー」。来日した米グーグルの法務担当副社長ケント・ウォーカー氏と日本法人の辻野晃一郎製品企画本部長が2008年9月29日,記者発表の席で「Googleストリートビュー」に関するさまざまな質問に答えた。「新しいテクノロジーにはクレームはつきもの」,「Webサービスは公開後,修正しながら運用できるのがよいところ」と,Webサービスに関するグーグルの考え方がよくわかる一問一答だった。

今のストリートビューのやり方は,自分の姿などが知らない間に撮影されてしまい,問題のある画像には後から削除依頼を出すオプトアウト(事後承諾)方式だ。この手法が反感を呼んでいるのではないか。ストリートビュー・カーに「撮影中」と明示する,あるいはあらかじめ被撮影者に許可を取るオプトイン(事前承諾)方式を採るなど,データ収集方法を変更するつもりはないのか。

ウォーカー氏:われわれは最終的にはユーザーにデータのコントロール権を渡すつもりでいる。しかし一方で,効果的に新しいテクノロジーを導入するにはどうしたらいいか常に考えている。効率よく新しいサービスを提供する方法としては,撮影済みのものに対して「削除して欲しい」という要望を受け付ける体制を整えておく方が重要なのではないか。

 新しい技術に対して予期しないクレームはつきものだ。例えば100年前に航空機が飛び始めたころは,「航空機が企業や一般の住宅の上を通っていった場合,それは不法侵入になるのか」を,当時の法律では定めにくいという状況があった。しかし,今では飛行機が飛ぶルートに存在する企業や住宅すべてから許可を得るのは現実的でない。そんなことを言い始めたら飛行機が飛べなくなるということになっている。

インターネットを使わない人や,ストリートビューを知らない人はそもそもオプトアウトで削除依頼を出しようがない。こうした人々の権利に対する配慮はないのか。

ウォーカー氏:友人や隣人,家族などスキルのある人に頼んで,グーグルに削除依頼のメッセージを伝えることはできるだろう。

依頼があった場合,「何時間以内に削除する」といったガイドラインはあるのか。また,サービス開始から今までの削除依頼件数はどのくらいか。

ウォーカー氏:削除依頼に関しては「なるべく早く対処する」というのが基本方針。日本のデータは把握していないが,米国ではサービス開始から数カ月間での削除依頼件数は全米で数百件程度だった。

辻野氏:日本法人でも削除依頼にはある一定の時間内に対応するようにしている。削除件数に関しては,日本法人では非公開。ただし,送られてきたすべての削除依頼に対応してはいる。対応後は,「削除が完了した」旨の通知も送るようにしている。

ストリートビューで「隠す」,あるいは「撮影しない」のはどういった領域なのか。

ウォーカー氏:まず,車のナンバープレート,人の顔にはモザイクをかけている。家の表札に関してもプライバシー上配慮すべきではというコメントをもらってはいるが,この点は未対応で今後の検討課題となっている。

 撮影範囲は「公道だけ」だ。その国や地域ごとに法律上問題になりそうなセンシティブな領域――例えば,軍事施設,水処理施設なども撮影していない。つまり,基本的には法律上許可があるところでしか撮っていないということになる。

しかし,実際にはストリートビュー・カーが私道で撮影している例がある。ドライバーには撮影ルールをどう指示しているのか。

ウォーカー氏:ドライバーには撮影前にしかるべきトレーニングを受けてもらって,公道以外は撮影しないということを明確に指示している。しかし,「公道はここまで,私道はここまで」という事実が,標識でも地図でも確認できないケースがある。間違えて私道を撮影してしまったケースがある場合はグーグルにお知らせいただきたい。そうすれば削除させていただく。

公道か私道か分からない場合は,「とりあえず撮って載せてしまう」ということか。

ウォーカー氏:具体的にどうしているかはこの場ではお答えできない。「標識と地図から得られる情報を基に,現場でベストな判断をしている」としか言えない。

ストリートビューに関して,日本の文化に合った形にローカライズした部分,あるいはこれからする部分はあるのか。

ウォーカー氏:日本では8月5日にストリートビューのサービスが始まってから,まだあまり日がたっていない。今はユーザーのフィードバックを集めている。例えば,日本では他国より表札の利用率が高い,道が細い,といった点などに関しては今後,配慮の余地がある。日本の壁の高さに比して,カメラの撮影位置が高いといったご指摘もいただいているが,逆にカメラ位置を下げると通りを歩いている人などがもっと詳細に写るのではないかといったリスクがある。さまざまな要素を考慮して,日本のグーグル・マップのチームが,日本向けにどのようなサービスにするべきかを試行錯誤している最中だ。

 インターネット・サービスの魅力は,サービスを運用しながらその内容を調整していくことができる点だ。例えば,日本で提供されているストリートビューには人の顔や自動車のナンバー・プレートにモザイクをかけている。これは米国でのサービス開始当初にはなかったものだが,モザイクを施す技術が完成した時点で,米国版にもその技術を適用した。このように,フィードバックを反映して常にサービスを改善していきたいと思っている。

削除依頼やフィードバックを受け付けているとはいうが,グーグルはユーザーの声に熱心に耳を傾けているとは思えない。例えばWebサイトを見ても,問い合わせ電話番号がどこにあるのかすらよくわからない。サポートを拡充する予定はないのか。

ウォーカー氏:当社は創立から10年の企業で,インターネット・サービスの世界で急速に大きくなってしまったという経緯がある。そのため,サービスの多くは自動化という形を取らざるを得ない。今後はより多くのユーザーに,より多くのサービスを提供していこうと努力している。

辻野氏:カスタマー・サービスについてはなるべく早期に改善したいが,まだキャッチアップできていないというのが正直なところ。なお,電話については代表番号に問い合わせれば担当に回すようにしている。

ストリートビューに関して,訴訟などはないのか。

ウォーカー氏:米国で「ドライバーが私道とわからず撮影してしまった」ため,訴訟に発展した例が1件ある。当該画像は削除したが,損害賠償を求められている。もっとも,撮影された物件は売りに出すためインターネットにすでに画像が公開されていたものだった。そのため,なぜ当社に損害賠償を求められたのかよくわからないのだが。

 グーグルではすべてのサービス,企業買収などに関して法的なリスクを検証している。法的リスクはいつも,既存の法律に適合しきれないような新しいサービスを提供するときに現れる。当社は「多くの人々にそのサービスの存在がメリットになる」ということをきちんと説明して法律と折り合っていきたい。