写真1●NTTPCコミュニケーションズ ネットワーク事業部 バリューサービス部長 事業企画部長の小山覚氏
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写真2●総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課の大西公一郎課長補佐
写真2●総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課の大西公一郎課長補佐
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写真3●位置情報を使ったP2Pソフトの概要
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 「管理機能を持たせたP2P技術の活用が,増え続けるネットワーク・トラフィックの低減に役立つのではないか」――2008年9月10日,安心・安全インターネット推進協議会のP2P研究会によるセキュリティ・セミナー「P2Pの現状 ~Winnyの解析とP2Pノードの見せる化~」が開催された。安心・安全インターネット推進協議会は,通信事業者やセキュリティ・ベンダー,インターネット・ビジネス関連企業などで構成される業界団体。インターネットの安全な活用を促進するため,セキュリティ上の問題を検討している。今回のセミナーでは協議会のオブザーバでもある総務省が,基調講演としてP2P技術の利用推進に関する同省の取り組みについて語った。

 まず開会のあいさつでは,同協議会でP2P研究会の主査を務めるNTTPCコミュニケーションズの小山覚氏(写真1)がP2Pネットワークの技術的な問題点を指摘した。同氏が「P2P問題の原点」と言うのが,2004年4月,あるプロバイダに通常の約6倍のDNSクエリが殺到し,メールの送受信やWebアクセスに障害が出た事件である。この背景にはP2Pファイル交換ソフト「Winny」ネットワーク上で蔓延していたウイルス「Antinny」の存在があったという。Antinny(厳密にはその亜種)に感染した多数のパソコンが,コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)のWebサイトに集中的にアクセスを仕掛けた。たまりかねたACCSは,一時的にDNSのAレコード(ホスト名とIPv4アドレスを結びつける情報)を消去した。「通常ならDNSエラーとなり,それ以上問い合わせが行くことはないはず。しかし,Antinnyはエラーを無視して無限に問い合わせを繰り返した」(小山氏)。その結果,大手プロバイダの通信にも影響が出てしまったのだ。

 「こうした事例から分かるのは,管理者不在のP2Pネットワークの怖さ」(小山氏)だ。ウイルスの蔓延のほかにも,DDoS攻撃,情報漏えい,著作権の侵害など,P2Pネットワークが巻き起こした問題は数多い。「P2Pトラフィックがインターネット全体の通信を圧迫している」という点も深刻だ。総務省によれば,「2003年ころのあるプロバイダの例では,総トラフィックの約75%をP2Pが占めていた」(総合通信基盤局 電気通信事業部データ通信課の大西公一郎課長補佐,写真2)。しかも,P2Pユーザーの数は,総ユーザー数の10%に満たない。さらに,P2Pユーザーの中でも10%のヘビーユーザーが,P2Pトラフィック全体の63%を占めていたという。「つまり,総ユーザー数の約1%程度のユーザーが,総トラフィックの半分くらいを占有していた」(大西氏)。2006年のある大手プロバイダの例でも,ダウンロード・トラフィックの30~70%,アップロード・トラフィックの50~70%程度をP2Pが占めているというデータがあるという。