写真●東京海上日動システムズの稲葉茂 取締役 抜本改革推進第1本部長
写真●東京海上日動システムズの稲葉茂 取締役 抜本改革推進第1本部長
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 「COBOLは現役バリバリだ。“COBOLは化石”などと口にするのはITとエンタープライズシステムが何たるかをわかっていない証拠」。東京海上日動システムズの稲葉茂 取締役 抜本改革推進第1本部長(写真)は“不当な”評価にさらされるCOBOLの評価をこう正した。稲葉取締役は2008年9月4,5日に開催した開発者向けセミナー「XDev2008」で「基幹系インフラを支え続けるCOBOL ~東京海上日動の抜本改革~」と題して講演した。

 稲葉取締役がこうした熱いエールを送るのには理由がある。東京海上日動火災が25年ぶりに取り組むシステム全面再構築である「抜本改革」プロジェクトでは,開発言語を多面的に評価した結果,新システムでもCOBOLをビジネスロジックの開発言語として再び採用したためだ。2008年5月に,3年7カ月前に着手した第1次フェーズが終了し,自動車保険システムが新たに生まれ変わった。300億円,3万人月強を投じている。

 抜本改革プロジェクトにおける開発言語の評価軸は,開発技術の動向といった「外部環境」,同社のスキルや技術文化などの「内部環境」,抜本プロジェクトにおける「プロジェクト要件」と「システム構造」の四つだ。外部環境で言えば「30年システムに携わっているが,COBOLは規格として長期間安定し,ビジネスロジックの書きやすさにおいては右に出る言語はない」と判断したという。

 内部環境を一言で表現するため,稲葉取締役は「開発1年・保守10年」と東京海上日動内で伝統的に伝わる「戒めの言葉」(稲葉取締役)を引いた。「システムは開発して終わりではない,いかにそれを高い効率と信頼性を保って保守していくかが欠かせない」(同)。

 このため同社は部品化とシステム構成のシンプル化に最も重きを置く。「COBOLはそれを最も実現しやすいと実証している。なぜなら5つのロジックと10の命令文で当社は30年間システムを保守できているからだ。実際,新システムでは旧システムから2000本のプログラムを部品として有効活用できた」(同)。言語自体のシンプルさは習得スピードの速さにつながり,人材育成にも有効だったという。

 プロジェクトの要件では,「プログラミングと単体テストを5カ月で終了しなければいけないスケジュールを乗り切るには,これまでのノウハウや人材を生かしきらなければならないと判断した」という。システム全面再構築のため,アーキテクチャ設計や要件定義,テスト工程に多くの時間を割く必要があった。

 最後の「システム構造」が「COBOL採用のもっとも大きな決め手になった」という。今回の新しい自動車保険システムは,処理量や信頼性,既存システムとの連携面からメインフレームで稼働させ,ソフトウエアのアーキテクチャにはデファクト・スタンダードであるMVCモデルを採用することが当初から決まっていた。「ビューは若手を中心にJavaで,モデルはベテラン中心にCOBOLで開発していくという分担ができた」(稲葉取締役)。

 「25年の間,システムの利用範囲は外に外にと広がっていった。そのたびに改修を加え,システムは本館の横に別館を建て増し,それを渡り廊下でつなぐような複雑な構造になった。保険商品も保険料の支払い方法もどんどん増え,それに伴いシステムは複雑さを増した」という。ビジネス面でこれらをお客様目線で見直し,シンプルにわかりやすくするのが,今回の抜本改革だ。

 稲葉取締役は「システムが複雑になったのはビジネスが複雑になったため」とぴしゃりと言う。「システムトラブルの原因を“COBOLを使っているからだ”などと話す人や“COBOLは化石”などと話している人を見ると,ビジネスに携わる技術者として見識を疑う。COBOLの将来はまだまだ明るい」と講演を締めた。