写真右から,日立製作所でソフトウェア事業部生産技術部に所属する加藤大受氏,メディアクリック代表取締役の大田育生氏,マイクロソフトでWindows Embedded担当シニアエグゼクティブプロダクトマネージャを務める松岡正人氏
写真右から,日立製作所でソフトウェア事業部生産技術部に所属する加藤大受氏,メディアクリック代表取締役の大田育生氏,マイクロソフトでWindows Embedded担当シニアエグゼクティブプロダクトマネージャを務める松岡正人氏
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 携帯電話やカーナビといった,パソコン以外のネットワーク・デバイスの利用シーンが急速に拡大している。2008年9月4日に日経BP社が開催したソフトウエア開発者向けセミナー「XDev 2008」では,こうしたデバイスへの組み込み開発の最前線にいる当事者によるパネル・ディスカッションが催された。議論では,プラットフォームの制約を受けないサービス開発が可能になりつつある実態が示されるとともに,組み込み開発のスタイルがエンタープライズ分野の開発スタイルに近付いてきているという状況が示された。

 議論に参加した組み込み開発の当事者は,以下の通り。データベース・ソフトやUIミドルウエアを提供する立場として,日立製作所でソフトウェア事業部生産技術部に所属する加藤大受氏。カーナビなどデバイス向けにサービスを企画/提供する立場として,メディアクリック代表取締役の大田育生氏。プラットフォームOSを提供する立場として,マイクロソフトでWindows Embedded担当シニアエグゼクティブプロダクトマネージャの松岡正人氏,---である。

デバイスの違いは制約ではなくメリット

 冒頭でマイクロソフトの松岡氏は,同社が掲げるコンセプト「SプラスS」(サービス・プラス・ソフトウエア)を紹介。「現在はインターネット上のネットワーク・サービス一辺倒ではなく,ネットワーク・サービスを利用するデバイス端末(と端末側ソフトウエア)の時代が到来している」とデバイス組み込み開発の時代的意味と重要性について触れた。

 日立製作所の加藤氏は,組み込み開発の成熟度合いが高まり,エンタープライズ(企業向け業務システム開発)に近付きつつある点を指摘。エンタープライズ系が,顧客担当の業務SEやアプリケーション技術者/ネットワーク技術者などに分かれ,一方で組み込み系がハードウエア/OS/ドライバ/ミドルウエアなどに分かれる,といった若干の違いはあるものの,その構造は似ている。プラットフォームの制約が減ることによって,エンタープライズ開発に近付いていく,と展望した。

 ハードウエアなどプラットフォームの制約についてマイクロソフトの松岡氏は,UIやメニューなどを,もっさり感なくサクサク動かすためには,ミドルウエア側とプラットフォーム側が連携する必要があると指摘した。日立製作所の加藤氏は,プラットフォームの強化だけでなく,ミドルウエアなど上位層においても,一度取り込んだデータをキャッシュして高速化を図るといった工夫が可能であると同調した。

 モノありきでサービスが生まれるパターンと,まずサービスありきでモノを作るパターンと,2つのパターンがある,と指摘するのは,メディアクリックの大田氏。特に音楽情報コンテンツなどは,コンテンツ・ホルダーが,コンシューマの日常シーンに溶け込んだハードウエア,例えば携帯型音楽プレーヤやカーナビなどに情報を出したがっているという。マイクロソフトの松岡氏は,米国のポータブル型カーナビ端末の爆発的ヒットに言及。米Microsoftでも,持ち運び可能なポータブル型カーナビを対象に,MSN Directを通じて各種の情報サービスを提供しているとした。

エンタープライズを習いMVCモデル開発も

 議論の中盤,日立製作所の加藤氏は,「エンタープライズではすでに当たり前だが,組み込みにおいてもMVC(Model,View,Control)モデルを適用した開発が浸透しつつある」と指摘。MVCフレームワークの標準があるというわけではないが,組み込み系開発者の一部は,独自のAPIを定義./実装し,UIからバックエンドのDBサーバーへと問い合わせるアプリケーションを開発しやすい開発環境を整備しているという。「今までは,こういうチップだから,こういうサービスにしよう,という関係だった。今は,こういうサービスをやりたいから,やる,という開発が可能になっている」(加藤氏)。

 サービス企画開発側のアプローチとしてメディアクリックの大田氏は,カーナビなどエンターテインメント性の強いデバイスにおいては,大胆なGUIを作ることでコンシューマの生活を活性化していきたい,とした。ただし,魅力的なサービスを実現していくためには,魅力的なサービスが生まれてくる土壌を育てることも必要と力説。人月のような開発単価計算だけでなく,クリエイティブな仕事に対する評価として“生産/清算の関係”が育つことが重要であるとした。