「証券会社が注文を出してから取引所の売買システムが受信するまでの通信時間を1ミリ秒(1000分の1秒)以下に抑えられる」。東京証券取引所の鈴木義伯常務取締役CIO(最高情報責任者)は、2009年に開始する「コロケーションサービス」の魅力をアピールする。

 コロケーションサービスは証券会社などの自動発注システムを自社のデータセンターで預かるもの。08年8月26日に発表した新サービスだ(関連記事)。

 証券会社のメリットは相場情報をいち早く受信できることだ。あらかじめ決めたルールに基づきシステムが自動発注する「アルゴリズム取引」と組み合わせることで、注文データを東証の売買システムに届ける時間を短縮することが可能になる。

 コロケーションサービスに先駆け、東証は来春から正副2カ所のデータセンター(DC)とアクセスポイント(AP)を光ファイバで結ぶ基幹ネットワーク「arrownet」を稼働させる。10Gビット/秒の通信網を駆使し、APとDCを2ミリ秒以下でつなぐ。証券会社は自動発注システムを置く自社のデータセンターとarrownetのAPをアクセス回線でつなぐことで、APから先は2ミリ秒で通信できる。アクセス回線の通信時間(推定数ミリ秒)を合わせても、せいぜい10ミリ秒程度だ。だが、「これらの時間さえ短縮したいとの要望がある。これに応えるのが今回のサービスだ」(鈴木CIO)。

 10ミリ秒の短縮にどれだけの意味があるのか。arrownetで十分なのではないか。こうした疑問に、鈴木CIOは「コンピュータによる自動発注の世界は人間の世界とは別物だ。証券会社にとって、一瞬の差は売買利益を上げられるかどうかを左右する」と答える。「1ミリ秒に数億円の価値があると話す海外の証券会社のトップがいるぐらいだ」と続ける。

 コロケーションサービスは米国の証券取引所でこの1~2年に一気に普及した。ニューヨーク証券取引所やナスダック証券取引所などのほか、欧州でも今年に入ってロンドン証券取引所などが始めている。

 東証は、高速処理が可能な新システムの稼働に合わせてサービスを始める。具体的には、09年夏に稼働させるオプション取引システム「Tdex+システム」と、年内に稼働予定の株式売買システム 「arrowhead」はシステムの稼働と同時にサービスを提供する。すでに稼働中の「派生売買システム」はarrownetの稼働後となる。

 システムはラック(47U)単位で預かる。セキュリティ面から証券会社の社員によるデータセンターへの立ち入りは禁止する。

 arrowheadなどを設置するデータセンターのほか、APを置くデータセンターでも同様のコロケーションサービスを提供する。AP設置型はarrownet経由での接続となるため、直結方式よりも転送時間が2ミリ秒余計にかかる。その分だけ利用料が安くなるとみられる。