東京証券取引所の常務取締役 最高情報責任者 鈴木 義伯 システム本部長
東京証券取引所の常務取締役 最高情報責任者 鈴木 義伯 システム本部長
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 「次世代の売買システムやネットワークを構築し,事業継続のための仕組み作りに力を注ぐ」---。8月22日,「エンタープライズ・リスク・マネジメント2008」,「Security Solution 2008」の基調講演に,東京証券取引所の常務取締役 最高情報責任者 鈴木義伯システム本部長が登壇。大規模災害などに対応するためのBCP(事業継続計画)導入をはじめ,東証の基幹システムの信頼性向上に向けた現状の取り組みと,今後の方向性を語った。

 鈴木氏によれば,東証が1日に受け付けている売買注文件数は600万~700万件で,年々増加傾向にある。さらに,近年ではアルゴリズム取引などコンピュータによる自動注文が増えており,システムの負荷が急速に高まっている。

 こうした市場の高度化と複雑化にいかに対応するか。「この競争に遅れると,市場の価値が下がる。システムの強化がそのまま市場の評価につながる」として,東証は現在,次世代売買システム「arrowhead」や次世代ネットワーク「arrownet」を構築している。これにより「1日5000万件の注文に対応できるシステムを目指す」という。

 2009年後半~2010年初頭の稼働を目指す「arrowhead」では,高速性と信頼性の確保に重点を置く。注文を受けてからの応答時間は,10ミリ秒を目指するが,実際には「6ミリ~10ミリ秒に収まるのではないか」(鈴木氏)という。

 信頼性については,ノードを3重化することで,一つのノードが壊れても取引への影響を少なくする。コスト低減も進める。「現在は100万件を処理するシステムを作るために3億円かかっている計算。次のシステムでは,これを3000万円まで引き下げる」という。システムの外部からの攻撃の対処をするために,流量制御の仕組みも組み込んだ。

 次世代ネットワーク「arrownet」は,地震などの災害に対応できるよう,地下に埋めたリング型の光ファイバや二重化したアクセスポイント,正副2カ所のデータセンターで構成する。セカンダリのデータセンターでは,平日の昼間に業務引き継ぎなどの試験ができる体制を整え,東証のIT部門の労働環境改善にも役立てるという。

 東証は,大規模災害が起こった場合などでも継続してシステムを稼動させる体制を整えるため,BCP(事業継続計画)の導入を積極的に推進する。業務復旧の目標は,売買約定業務が24時間以内,清算業務が2時間以内。バックアップ用の施設を新たに作り,売買約定の継続システムを2009年度内,清算の継続システムを2008年内に稼働させることを目指す。

 鈴木氏は,7月22日に起こったシステム障害にも触れ,「今回は単純なプログラムのミスだった。それを踏まえて,今後は新しい機能をリリースする際の試験のプロセスも見直していく」と話した。反省するべきは,「障害から復旧までの時間を短縮すること」として,そのための対策に重点を置くという。BCP導入の推進は,この考えに基づくものだ。

 今回,障害が起こった先物など派生商品の売買システムは,メインフレームではなく,オープン化した機能分散型のシステムを採用しているが,常に稼働状態を監視する仕組みの整備が必要と説明した。東証は基幹システムにはメインフレームを採用しているが,「今後はオープン系で機能分散型のシステムが使われるのは避けられない。東証としてもミッションクリティカルの業務にオープン系を活用できるように,インフラを整える」として講演を締めくくった。