青山学院大学大学院の八田進二教授
青山学院大学大学院の八田進二教授
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 「日本人は完璧を求めがち。だが,内部統制報告制度が求めているのは,『完璧』ではなく『合理的な対応』。ある程度の割り切りが重要になる」。金融庁企業会計審議会内部統制部会の部会長を務める八田進二青山学院大学大学院教授は,内部統制報告・監査制度,いわゆる日本版SOX法(J-SOX)に対応する企業に向けてこうアドバイスを送る。八田教授の発言は,2008年8月20日から東京都内で開催中の「エンタープライズ・リスク・マネジメント2008」「Security Solution 2008」における特別講演でのもの。「動き出した内部統制報告制度」と題し,J-SOXの趣旨や対応のポイントを講演した。

 「すでに金融庁から公表された文書にも書かれている通り,初年度で問題があった部分は2年目以降に対応すればよい。ただし,ずっと問題を放置するのは制度の趣旨から外れる」と八田教授は説明。「2年目,3年目と対応の深度を深くすることを目指すべき」とした。

 J-SOXは財務報告の信頼性向上を目指した制度。そのため「財務諸表の信頼性に割り切って評価を実施すべき。そうでないと莫大な対応コストがかかる。制度を作った側も,企業を潰そうと思って制度を作っているわけではない。重要なコントロール(統制)を見極め,コスト効率を考えて対応すべき」(八田教授)という。

 八田教授はJ-SOXの現状について「経営者の顔が見えていない」と指摘。これまで金融庁が公表した「基準」「実施基準」などの文書中に「経営者」という単語が360回登場していると例を披露。J-SOX対応は「経営者が主役の制度。にもかかわらず,受身の経営者がまだ多い」(八田教授)とした。ここでいう経営者は,社長やCEO(最高経営責任者)だけではなく,事業部門長や組織の長なども含んでいる。「ある程度の責任を持つ社員が,同じ意識を持って対応を進めるべきだ」と八田教授は強調した。

 もう1つ八田教授が指摘する現状の問題点は「地方格差」だ。親会社の場合は制度の理解なども進んでいるが,「地方の支店や子会社,海外の会社にはまだまだ制度が正しく理解されていないのではないか」と八田教授はみる。J-SOXは,海外の関連会社も含めて連結グループでの対応が求められている。「東京にある本社で目の届くところだけでなく,グループとして制度の理解が進んでいるかを見るべき」とした。

 最後に八田教授は「対応に必要なことは金融庁が公表した200ページの文書に書いてある。これは教科書のようなもの。教科書を読まずに参考書だけを読んで,試験に不合格でも文句は言えない。今回の制度も同じこと。しっかりと教科書を読み込んで,自社に合った対応を考えていってほしい」と訴えた。