米インテルは2008年8月18日(米国時間)、米サンフランシスコで世界の報道関係者向けに、同社の先端技術研究の取り組みを公開した。その研究群の共通テーマは「デジタル世界と仮想世界を橋渡しする(bridge the digital world with the virtual world)」。現実世界とコンピュータ、インターネットを相互に結びつけることで、新しいサービスやアプリケーションを可能にするのが研究の狙いだ。
米インテルのFellow and directorを務めるJim Held氏は「Connected Visual Computing(CVC)」と題して、コンピュータ技術の新しい潮流を紹介した(写真1)。CVCとは、モバイルコンピューティング、インターネット、センサーにより取得した現実世界のデータと二次元/三次元画像処理技術を組み合わせることで、新しいアプリケーションを実現する取り組みや技術を指す(写真2)。「CVCでは現実世界、人、インターネットを相互に結びつけて、新しいデジタル世界や、拡張された現実世界を作り出す」(Held氏)。
CVCを構成する要素技術やサービスはすでに存在する。その一つが、「SecondLife」をはじめとした三次元仮想空間サービスだ。「三次元仮想空間サービスは、ネット上でリアルな体験を得られる。2007年時点での総ユーザー数は6000万人だったが、2008年6月の時点では3億人を超えた。今後10年間で10億人規模に拡大すると予測されている」とHeld氏は語る。
最近注目を浴びている研究分野の「Augmented Reality(拡張現実感)」もCVCの構成要素技術の一つである。拡張現実感とは、コンピュータを使って現実世界に各種の説明情報を付け加えることで、人間の行動を支援する考え方を指す(写真3)。GPS(全地球測位システム)を使った地図情報システムはその代表例だ。また、カメラで患者の患部を映し出し、患部の奥の様子を模式的に示した三次元画像を重ねることで医師の手術を支援するシステムは、拡張現実感を適用したものといえる。
CVCを実現するためにITが乗り越えるべき課題の一つは、コンピュータの処理性能やネットワークの通信速度をどうやって高めるか。SecondLifeなどの三次元仮想空間サービスを十分な形で提供するには、サーバーについてはこれまでの10倍の処理性能、クライアントについては2倍のプロセサパワーと30倍のGPU(画像処理プロセサ)パワー、ネットワークは100倍の通信帯域が必要だという。
処理性能を高めるためのアーキテクチャとしてHeld氏は「Distributed Computing」を紹介した(写真4)。主要な処理を担う中央のコンピュータ、シミュレーションや各種データの管理など部分的な処理を担うコンピュータ、画像のレンダリングや推論処理を担当する目的別のサーバー、手元のパソコンなどに処理を適切に振り分けるというものだ。
画像処理分野では「Simplifying Content Creation」という研究テーマを進めている。顔の形やあごなど顔についてのいくつかのパラメータを操作することで、ユーザーの意図に沿った顔の三次元モデルを作れるというものだ(写真5)。「より多くのユーザーが三次元空間に気軽に参加できるようにするためには、ユーザーが思った通りの三次元オブジェクトを簡単に構築できるツールが欠かせない」(Held氏)。
計測と画像処理を組み合わせ皮膚がんの診断を支援
現実世界とコンピュータを結びつけるための最も重要な技術が、現実の状況をデジタルデータとして取得するセンサーである。インテルの研究開発部門であるIntel Researchのディレクターを務めるAndrew Chien氏(写真6)は、センサーと画像処理技術を組み合わせた研究例を紹介した。
代表例として挙げたのが、「Marking Stem Cells」や「Matching Skin Lesions」といった医学系の研究だ。Marking Stem Cellsは幹細胞(Stem Cell)の生成や死滅といった生物のミクロレベルの動きを可視化したもの。Matching Skin Lesionsはヒトの皮膚がんの症例画像をデジタルデータとして蓄積し、患者の現状の皮膚画像と比較することで適切な診断に役立てるという研究だ(写真7)。
状況から気付きを得るコンピュータ
またChien氏はセンサーで人間の行動をデータとして取得し、人間の特性を考慮したハード/ソフト技術の開発につなげる基礎研究を紹介した。人間の肩や腕、腰に付けるカメラやモーションセンサー、あるいはテレビのリモコンなどに装着したセンサーを使って、データと人間の挙動を結びつける取り組みを進めているという。
この基礎研究と関連した研究テーマが「Situation Awareness」である。センサーで取得したユーザーのデータをリアルタイムに解析することで、ユーザーの置かれた状況(Situation)から気付き(Awareness)を得ながら、様々なサービスをユーザーに提供するというものだ。
インテルのMary Smiley氏はその一環として進めている研究プロジェクト「Proactive Wellness」を紹介した。モバイルデバイスと体に装着したセンサーを組み合わせて、コンピュータ側から先回りして運動を促したり食事のアドバイスを提供したりする(写真8、写真9、写真10)。関連研究として、救急車向けの遠隔診療支援システムがある。患者の脈拍などのバイタルサインをセンサーで計測・分析したうえで、患者への適切な処置を救命士に知らせるというものだ(写真11)
本日の発表は、翌8月19日から米サンフランシスコで開催される「Intel Developer Forum(IDF)」を控えて、世界の報道関係者向けに催されたもの。19日からのIDFでは、インテルの次期主力プロセサ群「Core i7」の詳細が公表される見通しだ。