写真1●エリクソン 北東アジア CTO 藤岡雅宣 氏
写真1●エリクソン 北東アジア CTO 藤岡雅宣 氏
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 日本エリクソンは2008年8月6日,LTEやHSPA Evolutionなどモバイル・ブロードバンドの動向に関するプレスセミナーを開催した。エリクソン北東アジア CTOの藤岡雅宣氏(写真1)は,「今までCDMA2000を採用していた事業者がW-CDMAやGSMのシステムに転向するケースが増えている」と,ワールドワイドでLTEが優勢である点を強調した。

 3.9G携帯電話の仕様には,3Gの仕様「W-CDMA」の発展型であるLTEのほかに,同じく3G仕様「CDMA2000」の発展型・UMBがあるが,W-CDMA/LTEのほうが増えているという。

 2007年1月に米ベライゾン・ワイヤレスがLTEを採用する方針を打ち出したほか,オーストラリアや韓国の事業者がW-CDMAに,中南米やインドの事業者がGSMにそれぞれ移行するケースが出ている。日本でも「公式発表はされていないが,KDDIもLTEを採用するだろう」(藤岡氏)。

 また,各国の大手通信事業者などから成る団体NGMN(Next Generation Mobile Network)でも,LTE,UMB,WiMAXを検討した結果,2008年6月にLTEを対象技術に選定した。NGMNは次世代のモバイル・ブロードバンド技術について,サービス要求条件や技術評価基準,知的財産権の取り扱いなどを検討する団体で,18の通信事業者と29の関連ベンダーが参加している。

 相互接続性に関する取り組みも進んでおり,やはり各国の通信事業者や関連ベンダーが構成したLSTI(LTE/SAE Trial Initiative)という団体で検討中だ。2009年あたりから,開発途中の機器を持ち寄るなどして積極的に相互接続試験を実施する見通し。「W-CDMAが登場した際は,こうした取り組みが不十分だったので相互接続上の問題が出た。LTEでは最初から相互接続性を重視していこうという方針」(藤岡氏)だという。

WiMAXとのハンドオーバーやNGNとIMS共通化も

 LTEの仕様(3GPP Release 8)は3GPPで標準化の最中で,2008年中には標準化作業が終了する。エリクソンでは「現在,LTEのソフトウエア,ハードウエアを開発中。2009年後半には商用の製品ができる予定」(藤岡氏)である。

写真2●LTEのSAEを中心としたネットワーク構成例
写真2●LTEのSAEを中心としたネットワーク構成例
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 LTEのコア・ネットワーク側の仕様(SAE)は,無線LANやWiMAXとの接続に関しても規定しており,LTEと相互にハンドオーバーが可能だ。そのため,「今後のFMCシステムでは,LTEのSAEがオールIP化したネットワークの中心となっていくのではないか」(藤岡氏)という(写真2)。

 また,IMS(IP Multimedia Subsystem)に関しても共通化が進んでおり,「移動体通信だけでなく,NGNも含めて共通IMSを採用することになるだろう。この標準化は3GPP2などさまざまな団体とやりとりした結果,3GPPで作業することになった。次の仕様である3GPP Release 9に盛り込まれる」(藤岡氏)。

写真3●HSPA Evolutionのロードマップ
写真3●HSPA Evolutionのロードマップ
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 一方,LTEまでの中継ぎとして,現行HSDPA/HSUPAを改良した「HSPA Evolution(HSPA+とも呼ばれる)」の採用を検討する事業者も多い。HSPA Evolutionは現行のHSDPA/HSUPAの技術をベースに,変調方式を変更したり,MIMOを導入したりすることによって下り42Mビット秒,上り12Mビット/秒程度の速度を実現できる(写真3)。4×4MIMOなどを利用すれば,将来的に下り80Mビット/秒,上り23Mビット/秒ま で高速化できる可能性があるという。

 現行仕様の改良版としては,Dual-Cell HSDPAも注目されている。こちらは複数の5MHzのキャリアを同時に利用することで高速化を実現する技術で,3GPP Release 8で標準化される予定だ。現行のHSDPAのマルチキャリア版と言える。既存のHSDPAシステムのソフトウエアをアップデートするだけでよく,ハードウエアには手を入れずに済むため,低コストで導入できるのが利点だという。