写真●合意書にサインするイー・アクセスの深田浩仁代表取締役社長(左)とアッカ・ネットワークスの須山勇代表取締役社長(右)
写真●合意書にサインするイー・アクセスの深田浩仁代表取締役社長(左)とアッカ・ネットワークスの須山勇代表取締役社長(右)
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 ADSL事業者のイー・アクセスは2008年7月31日、同じくADSL事業者のアッカ・ネットワークスを子会社化することで合意した(関連記事)(写真)。これにより、ソフトバンクBBに次ぐシェア22%を持つADSL事業者が誕生した。同日16時30分から都内で開催された記者会見では、終始友好ムードを強調。両社がこれまで繰り広げてきた、経営の主導権争いのイメージ払拭に躍起になる姿勢が見え隠れした。

 2008年1月にアッカの筆頭株主になったイー・アクセスは、当時の取締役の退任を求める株主提案を行うなどアッカの経営に介入。アッカはイー・アクセスの提案の多くを無視し続け、イー・アクセスの千本倖生会長は一時、委任状争奪戦の可能性まで示唆した(関連記事)。

 アッカは2月に経営陣の一新を発表したが、同社の木村正治 前社長は「イー・アクセスの提案によるものではない」とコメント(関連記事)。両社の冷え切った関係がうかがえた。その後も、3月にアッカが行った自社株式取得に対してイー・アクセスが「株主訴訟も辞さない」(千本会長)と抗議の会見を開くなど、険悪な関係が続いた(関連記事)。

 こうした背景もあり、7月31日の記者会見では報道陣から「両社の間が険悪だった時期があるが、わだかまりはないのか」との質問が飛んだ。これに対し、アッカの須山勇社長は「(2月に経営陣を一新して)私が社長になってからは順調に話をしている。イー・アクセスの子会社になることに違和感はない。競争相手と手を組むのは感慨深いが、いざこざによるわだかまりはない」と回答した。

 一時はアッカに強い口調で迫っていたイー・アクセスの千本会長も「アッカの新経営陣は、以前の経営陣よりも明らかに戦略的に前向きの会社経営をしている。アッカの須山社長とイー・アクセスの深田浩仁社長は想像以上に良い連携をしており、戦略的な話し合いを率直にできる環境が整った」と、アッカ新経営陣とは雪解けムードだったと強調した。

ADSLでシェア30%を目指す

 今回の資本提携により、イー・アクセスとアッカの両社は事業統合を行う。具体的には、イー・アクセスが所有するADSL設備をアッカに譲渡する。両社のADSLサービスにかかわる通信設備をアッカが運営し、イー・アクセスはその設備を借り受ける形にする。加えて、モデムレンタルや物流、サポートなどのバックエンド業務をアッカに委託。イー・アクセスのADSL事業は商品企画と営業にリソースを集中する。

 こうした事業統合により、アッカは140億円の増収、60億円の増益を見込む。イー・アクセスは設備運用の効率アップにより10億円の増益を試算する。イー・アクセスの千本会長は「ADSL回線のホールセール(卸売り)という事業構造の似た2社が競争してもメリットはない。効率化でADSL事業を伸ばすとともに、今後はモバイルブロードバンド事業の強化も図っていきたい」とした。

 両社はまず、今回の事業統合による効率化を顧客獲得に振り向ける。「現在1300万いるADSLのユーザー数は減少傾向とはいえ、1000万程度で踏みとどまると見ている。2010年までにそのうち30%のシェア獲得を目指す」(イー・アクセスの深田社長)。

 次にモバイルブロードバンド事業の強化で協力する。イー・アクセスの千本会長は「アッカの技術者にモバイルブロードバンドを手伝ってもらいたい」と人材面の強化を語り、アッカの須山社長は「モバイルブロードバンドの基盤を手に入れたのは大きい。MVNO事業に生かしていきたい」と事業面での連携に言及した。

 このほかの事業についても業務統合による強化を目指すという。イー・アクセスの深田社長は「利益が出るならば法人向けサービスの展開もありうる」とコメント。法人市場でもNTT、KDDI、ソフトバンクの3大グループに対抗していく可能性を示唆した。

 なお、アッカの第2位の株主だったNTTコミュニケーションズは、保有するアッカ株式すべてを米ファンドのイグナイト・アソシエイツに譲渡すると発表した。この株式の移動により、イグナイトは約14%のアッカ株を保有することになる。