政府の知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」は2008年7月29日に第6回会合を開催した。知財制度調査会ではこれまでの日本版フェアユースに関する議論の中で,「将来予期できない技術進歩に迅速に対応するためには(具体的な記述ではなく幅広い範囲を対象にできるような)一般規定が著作権関連の法規として必要ではないか」という意見が出ている。一方で,一部の委員は「裁判所における審理の観点からは,個別具体的・限定的な規定があるほうが良いのではないか」と主張している。今回の会合では,オブザーバーとして呼ばれた2人の有識者が,日本版フェアユースの導入に向けた提言を行った。

 オブザーバーの1人である神戸大学大学院法学研究科の島並良教授は,個別規定と一般規定の違いを明らかにし,それぞれを選択するうえでの基準を示した。個別規定は立法機関である国会が法律の制定によって当事者の行動の是非を事前に決定するもので,一般規定は当事者の行動の是非を事後的に裁判官が決定するものと説明した。さらに,個別規定と一般規定によって日本版フェアユースを実現するための形態の案として,(1)既存の権利制限事項については各事項ごとに「小一般規定」を設ける,(2)新たな権利制限事項については全事項を対象にした「大一般規定」を設ける――ことを提案した。

 もう1人のオブザーバーである神奈川大学の奥邨弘司准教授は,米国のフェアユース関連の裁判例を基に,日本版フェアユースについての提言を行った。具体的には,ソニー製のVTRを使用したテレビ番組の録画に関する訴訟を通じて,著作物の利用を可能とする機器を製造販売する企業が二次的侵害責任を負う基準が明らかになったことを挙げた。そのうえで,現在は著作物を利用するに際してデジタル機器やインターネットなどを使うことが当たり前になっているため,「デジタル機器などの提供行為が二次的侵害責任の観点からどのように評価されるかも重要な問題だ」と指摘した。

 オブザーバーによる説明の終了後の質疑応答では,一部の委員が「一般規定があると裁判の進行が遅くなるので,規範は具体的であるべき」という趣旨の発言をしたが,フェアユースの導入自体を否定する意見は出なかった。知財制度調査会における日本版フェアユースについての議論は今回の会合で終了する。次回からはコンテンツの違法対策について話し合う予定である。