米Microsoftは,同社の中核製品と直接ぶつかるオープンソース活動を支援するという,奇妙な戦略的判断を下した。同社は,最も使われているWebブラウザ・プラットフォームを開発するオープンソース団体Apache Software Foundation(ASF)に資金援助するだけでなく,Webサーバー・アプリケーション・プログラミング言語のPHPプロジェクトにコードを提供し,「Windows Sever」と「.NET Framework」の接続仕様をロイヤルティ・フリーで公開するのだ(関連記事:MicrosoftがApacheのプレミアム・スポンサーに,IISはPHP対応を強化)。

 Microsoftプラットフォーム戦略上級ディレクタのSam Ramji氏は今回の支援拡大を発表したブログ記事に,「(ASFを支援するものの)Webサーバー『Internet Information Services(IIS)』が当社の戦略的Webサーバー技術である方針は変わらない」と明記した。「IISに対する長期的な投資は続けるし,将来版『IIS 8』の開発も進行中だ。支援拡大は『The Apache Way』(Apache的なやり方)に対する強力な支持の表れであり,ASFと当社の新たな関係の幕開けとなる。ASFとは,2007年に『Apache POI』『Apache Axis2』『Jakarta』やそのほかの開発プロジェクトで協力した。今後も,こうしたオープンソース・ソフトウエアに対する技術的な支援と相互接続性の確認作業を続ける」(Ramji氏)

 それにしても,なぜMicrosoftは支援を拡大するのだろうか。同社の代表者は先日オレゴン州ポートランドで開催されたオープンソース関連会議O'Reilly Open Source Convention 2008(OSCON 2008)に出席し,この支援計画が既存の仕様公開プログラム「Open Specification Promise(OSP)」(関連記事:Microsoft,「Webサービス実装に必要な特許は使っても提訴しない」と宣言)を拡大するだけに過ぎないと発表した。OSPは,同社が自社開発技術を特許に縛られていないオープンソース・コミュニティーに提供し,オープンソース・ソフトウエアと同社製ソフトウエア間の移行の妨げになる制約を緩和しようという取り組みである。

 この件に関する最大のニュースは,MicrosoftがOSPで最も問題とされてきた条件を緩めることだろう。これまでの場合,オープンソース開発者が同社のプロトコル仕様を閲覧すると,非商用ソフトウエアしか開発できなくなる。ところが,今回この制限の適用が除外される。

 Microsoftは大量の資金援助も実施した。Apache開発プロジェクトのスポンサーとなり,ASFに10万ドルを寄付する。さらに,PHP環境にMicrosoft系データベースへのアクセス機能を追加できるPHPベースのコード・ライブラリ「ADOdb」も寄贈する。PHPは,同社の「Active Server Pages(ASP)」および「ASP .NET」と競合関係にある技術だ。ADOdbを利用すると,PHPから「SQL Server」データベースにアクセスできるようになる。

 それだけでない。MicrosoftはWindows Server/.NET Frameworkという極めて象徴的な2製品の相互接続用プロトコルをOSPの対象に加えた。これによって,オープンソース・ソフトウエア開発者/プロジェクトは法的トラブルを恐れることなく同社の特許技術と接続できる。そのほかにもOSP対象製品の種類は多く,「Virtual PC」およびHyper-Vで使われている仮想マシン用ファイル形式「Virtual Hard Disk(VHD)」,文書フォーマット「Office Open XML」,「Office 97」から「同2007」のバイナリ文書フォーマット,Windowsメタファイル(WMF)などの各種画像フォーマットも含まれる。