写真1●KDDIの小野寺正代表取締役社長兼会長
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写真2●KDDIの法人向け端末のプレゼンテーション
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 「携帯電話はこれまでのパーソナルゲートウェイから,今後はパーソナルエージェントとして進んでいくだろう」。KDDIの小野寺正代表取締役社長兼会長(写真1)は2008年7月23日,東京ビッグサイトで開催中のワイヤレスジャパン2008の基調講演で,今後の携帯電話の方向性についてこう語った。

 パーソナルゲートウェイとは,さまざまな機能によって情報を入手したり発信したりすることを意味する。これに対して,パーソナルエージェントとは,ユーザーの状態や環境,行動履歴などの情報に基づいて,個々のユーザーにとって最適な情報やサービスを提供することだ。小野寺社長は,「パーソナルゲートウェイの考え方は,ほぼ実現できている」とした上で,今後はパーソナルエージェント的な機能やサービスが携帯電話の世界で広がっていくと説明した。

 KDDIは,既にパーソナルエージェントを実現するサービスを提供し始めている。小野寺社長は,具体的なサービス例として,パソコンでダウンロードした映画一本を携帯電話で持ち歩いて視聴できる「LISMO」,携帯電話を使って振込や預金管理などができる「じぶん銀行」,音楽を聴きながら運動,健康管理までできる「Run&Walk」,データセンターから映像作品をダウンロードしてDVD-RWやDVD-RAMなどに書き込みが可能な「DVD Burning」を紹介した。

 KDDIの携帯電話の契約数は3000万を超え,過去7年間で2倍以上にも増加した。しかし,普及がひと段落し,これまでのように契約数の急激な伸びは期待できない。小野寺社長はこうした現状を認識した上で「今までは数で伸びてきたが,今後は数ではない。携帯電話にさまざまなサービスが載り,パーソナルエージェントとして,ユーザーがもっと楽しく使い,効率的に仕事ができる世界ができる」と,パーソナルエージェント型のサービスの重要性を強調した。

データセンターに今後250億円投資

 小野寺社長は,法人向けのFMBC(fixed mobile and broadcasting convergence)サービスの戦略についても語った。今年4月からマイクロソフトとの協業で開始したSaaS(software as a service)の「Business Port」や,法人向けに特化した端末の開発,緊急地震速報対応通信モジュール関連の取り組みについて説明。端末開発のプレゼンテーションでは,SaaS連携やオープンOS,個別のカスタマイズなどを盛り込んだ“次世代法人端末”の構想も披露した(写真2)。

 法人向けビジネスでは,グローバル展開の計画を説明した。KDDIは,世界の46都市60拠点に事業拠点を置いてビジネスを展開しているが,小野寺社長は「データセンターとネットワークの結びつきが今後ますます重要になる」として,データセンター事業を強化していく考えを示した。具体的には,現在海外で「TELEHOUSE」ブランドで展開するデータセンターに対して約250億円を投資。2010年までに総面積を現在の約1.5倍に相当する10万平方メートル超に拡大する計画だ。

FMBCを支える技術も紹介

 小野寺社長は,FMBCサービスを支える技術開発について解説した。まず,ユーザーの利便性をさらに向上させるための技術として,(1)ウォークスルー自由視点映像,(2)コンテンツの推薦(レコメンド技術),(3)1Gビット/秒の高速赤外線通信インタフェース──という三つの技術を紹介した。

 (1)のウォークスルー自由視点映像は,通常はカメラを設置できない場所から見た映像を生成することで,視聴者が視点を自由に選べるという技術である。この技術を活用することによって,例えばサッカーの試合を選手の視点から見るといったことが可能になる。小野寺社長は「ウォークスルー自由視点映像はIPTVの大きなサービスの要素になるのではないか」と期待する。(2)のコンテンツの推薦(レコメンド技術)は,コンテンツの購入履歴や利用履歴,ユーザーの属性情報や環境などを総合的に分析して,その場の状況に合ったコンテンツを推薦する仕組みである。(3)の1Gビット/秒の高速赤外線通信インタフェースは,携帯電話とテレビ,DVDレコーダーなどとの間で大容量のデータを赤外線で高速に転送する技術。100Mバイトのファイルの転送にも0.8秒しかかからない。こうした高速赤外線通信の実現によって「今後はいろいろなモノと携帯電話をつなぐ世界がますます進展するだろう」(小野寺社長)。

 小野寺社長は,今後の3Gシステムの進化の見通しについて「3GではCDMAがメーンの技術として使用されているが,3.9Gや4GではOFDMAの技術が進展するだろう」と語った。具体的には,「伝送情報量に応じて複数の無線波を使用するOFDMAと,マルチアンテナ技術による大容量伝送が可能になるMIMOを利用することによって,CDMAとは違った高度なサービスが受けられるようになるだろう」と,今後の方向性についての見解を示した。

 高速化の技術が進展する一方で,小野寺社長は「実用性を求めた場合にどのスピードがいいのかは別問題。携帯電話というスタイルでどこまでスピードが求められるのかを考える必要がある」と意見した。さらに,ユーザーが定額制のデータ通信料金でより大容量のデータをダウンロードするようになると,「インフラ事業者としては,ビット当たりの単価の低減を目指す必要がある」と述べた。

 また,フェムトセルについては「免許が必要ないのであればマクロセルとの干渉問題が発生する可能性がある」と問題点を指摘。今後フェムトセルを安心して利用できる環境を整えるためにも,「不法無線対策の強化が必要」と主張した。