写真◎日本内部統制研究学会 第1回年次大会の風景
写真◎日本内部統制研究学会 第1回年次大会の風景
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 「1000社以上が『重要な欠陥』を報告するとのウワサもある。内部統制報告制度は円滑に進むのだろうか」――。日本内部統制研究学会は2008年7月5日、第1回年次大会を東京・渋谷の青山学院大学で開催。研究者や公認会計士、実務家200人以上が集まり、内部統制報告制度、いわゆる日本版SOX法(J-SOX)について様々な立場から報告した(写真)。

 中でも白熱したのが「『重要な欠陥』のレベル感についてどう考えるべきか」の議論だ。証券取引所、公認会計士、弁護士、経営者、コンサルタントといった様々な立場の担当者が「内部統制報告制度をめぐる諸問題―現在の動向」と題し、統一論題報告を行った。

 J-SOX対応の教科書である「財務報告にかかる内部統制の評価および監査の基準」では財務諸表について、虚偽記載がある可能性がある内部統制上の問題を程度の大きさによって「不備」と「重要な欠陥」の2種類に分類して報告することを定めている。

 不備は「会計基準や法令に準拠して取引を開始、記録、処理、報告することを阻害し、結果として『重要な欠陥』となる可能性があるもの」。重要な欠陥は「内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、または質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性があるもの」を指す。

「重要な欠陥=虚偽記載がある」は誤解

 モデレータを務めたコンサルティング会社コントロール・ソリューションズ・インターナショナルの加藤厚社長は冒頭の発言から問題を提起。「金融庁がQ&Aなどの文書を出して誤解を払しょくしようとしている一方で、企業だけでなく監査人、コンサルタントなども過度に保守的な対応をしているといわれている」と現状を分析した。

 ここでいうQ&Aとは、金融庁が6月24日に公開した「内部統制報告制度に関するQ&A」のこと(関連記事)。特に重要な欠陥については「虚偽記載の可能性があるものを指すが、重要な欠陥があった時点ですぐに虚偽記載があると誤解されている」と指摘した。

 これを受け、東京証券取引所自主規制法人(東証)の土本清幸氏は「米国では重要な欠陥(Material Weakness)の定義が変わってきている。日本でも初年度以降、中期的に様子を見ていく方針」と説明した。これは東証が重要な欠陥があった場合でも即時開示を求めない方針としたことを受けている。ただし「重要な欠陥を数年間、放置している企業には改善を促す制度の導入などは今後、考えていきたい」とした。一方で「初年度に数多くの重要な欠陥が報告されると、本当に重要な欠陥が埋もれてしまう」との懸念を示した。

 次に登壇した太陽ASG監査法人の梶川融氏は「内部統制報告制度の対応水準は経営者が本来決めるもの。これに法制度が明示的に水準としているものを加えた範囲で対応すべきではないか」と強調。重要な欠陥については「課題、努力目標との意味合いが強い。日本語で欠陥というと厳しく感じられ、本当の意味が理解しづらい」と話した。

「重要な欠陥があっても、どんどん開示すべき」

 3人目に登壇したのは、企業のリスク・マネジメントなどが専門の山口利昭弁護士。山口氏は「金融商品取引法という法律で考えた場合、企業の財務諸表の信頼性を担保する仕組みは内部統制報告制度だけではないことを認識すべきだ。四半期決算や経営者の確認書制度など、ほかにもたくさんある」と法律家の視点から意見を述べた。そのうえで「この意見を言うと多くの企業経営者には反対される」と前置きしてから、「内部統制報告制度は開示にかかわる制度。重要な欠陥があっても、企業はどんどん開示すべきではないか」(同)とした。

 最後に経営者の立場から話したのが、リスク・コンサルティング会社のプロティビティジャパンで最高顧問を務める伊藤進一郎氏。同氏は住友電気工業の副社長を務めていた経験を基に「制度に関係なく、重大なリスクに対策を講じることは経営者の責務」と強調。経営者の考え方の浸透や社風などである「統制環境の整備が重要だ」とした。

 学会では統一論題報告のほかに、八田進二 青山学院大学大学院教授が「内部統制の重要な欠陥にかかる実態調査の結果について」と題して研究部会報告を行ったほか、金融庁総務企画局企業開示課の野村昭文 企業会計調整官による「内部統制報告制度の円滑な導入に向けて」と題した特別報告などがあった。

 日本内部統制研究学会は2007年12月に設立。内部統制の研究家のほか、公認会計士や弁護士、企業の関係者などから広く会員を募っている。会長は静岡県立大学の川北博氏。