米Salesforce.comのMarc Benioff会長兼CEO
米Salesforce.comのMarc Benioff会長兼CEO
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 「これまでの10年間は,SaaSモデルを普及させることに力を注いできた。次の10年間の変革を支えるモデルは,『Platform as a Service』だ」──。来日した米Salesforce.comのMarc Benioff氏(会長兼CEO,写真)は7月2日,東京都内で開催中の「IT Japan 2008」の講演でこう語った。

 Benioff氏はまず,IT業界が提供するテクノロジのモデルが,メインフレームによる垂直統合型から,クライアント/サーバーによる水平分業型のモデルに代わり,現在は,サービスとしてソフトウエアを提供する「SaaS(Software as a Service)モデル」に変わってきたことを説明。「業界全体でパラダイムシフトが始まっている」と強調した。

 Salesforce.comは,営業支援や保守業務支援,販売代理店管理などのアプリケーションをSaaSモデルで提供してきた。サービスの利用者は急増しており,今年4月末時点で,4万3600社が利用し,1日当たり1億5000万トランザクションを処理しているという。

 このSaaSモデルの基盤となるプラットフォームをサービスとして提供するのが,「PaaS(Platform as a Service)」モデルである。Salesforce.comは,「Force.com」と呼ぶアプリケーション開発・実行基盤をサービスとして提供している。Benioff氏は「アプリケーションとプラットフォームの両方を提供していくことが当社のビジョンだ」と宣言した。

ソフト開発者にPaaSが大きなメリットをもたらす

 Benioff氏は,このPaaSモデルが「Web 3.0」であり「クラウド・コンピューティング」であると話す。Yahoo!やAmazon.comなどインターネット上にキラー・アプリケーションが登場した時代が「Web 1.0」,YouTubeやfacebookなど,ユーザー主導型のコラボレーションやコミュニケーションが「Web 2.0」である。PaaSはそこからさらに進化し「すべてのユーザーが革新を実現するモデルだ」(Benioff氏)とした。
 
 Force.comは,セキュリティが確保されたインフラ上で,データベースやアプリケーションの連携機能,機能部品,ユーザー・インタフェース,そして開発環境まで,サービスとして提供する。ISV(独立系ソフト・ベンダー)は,独自のSaaSアプリケーションをForce.com上に構築できる。Benioff氏は,「DellのサーバーやCiscoのスイッチ,Hitachiのストレージ,Oracleのデータベースを購入する必要がない。すべてをクラウドから利用できる」と,PaaSがソフトウエア開発者に大きなメリットをもたらすモデルであることを強調した。

 講演の後半には,実際にForce.comを使ってアプリケーションを開発しているテラスカイの佐藤秀哉氏(代表取締役社長)が登壇。不動産業向けの物件検索・商談管理のシステムと,携帯電話から送った写真をリアルタイムで公開できる旅行会社向けの旅行情報サイトのデモを披露した。佐藤氏は,「色々なツールを使って,同じアプリケーションを作ることは可能だ。しかし我々はこのアプリケーションを作るのにサーバーを一切買っていないし,インフラを管理するエンジニアを新たに雇う必要もない」と,Force.comのメリットをアピールした。

 Benioff氏は「古いインフラを使って,いつまでアプリケーションを作り続けるのか。次世代のアプリケーションを,SQL Server上で作り続けられると思うか」と会場に問いかけ,PaaSモデルが今後は広く普及していくと主張。「PaaSモデルを提供するのは当社だけではない。今後は数多くのプラットフォームがサービスとして提供される」と語った。