コマツの坂根正弘代表取締役会長
コマツの坂根正弘代表取締役会長
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 「経営者が現場に立脚していないと、改革の成果は出せない」。7月2日、都内で開かれた「ITJAPAN2008」で、建設機械大手コマツの坂根正弘代表取締役会長は「コマツの経営構造改革」と題した基調講演で経営トップの現場密着の重要性を説いた。

 坂根氏が社長就任した直後の2002年3月期、コマツは約800億円の最終赤字を計上した。坂根氏は一気に構造改革を断行し、2003年3月期に約330億円の営業黒字というV字回復を達成した。経営の見える化を進め、変動コストと固定コストを区別。間接業務、子会社数、製品数などにメスを入れて利益率を高めた。基調講演では、固定費を2年間で500億円削減するなど弱みを克服するとともに、IT(情報技術)活用によって強みを磨いてきた改革の成果を語った。

 まず取り組んだのは、弱みを克服するための構造改革だった。販売管理費や一般管理費などの費用が競合である米キャタピラーと比べて6%高いことに着目。その結果、粗利益率は同水準であるにもかかわらず、営業利益率は6%も差がついていた。これは坂根会長が1990年代に米国に駐在していたころから感じていた危機感だったという。

 「競争力を失っていたのは、ものづくりではなく、間接業務といった後方機能だ」(坂根会長)。そこでコスト構造を明らかにするなど、ファクツ(事実)を徹底して可視化することを通じて構造改革に取り組んだ。この結果、固定費を2年間で約500億円削減し、今では売上高販管費比率などが米キャタピラーを下回るほどの体力がついたことを披露した。

 弱みを克服する一方で、自社の強みも伸ばしてきた。「IT・環境・安全」をキーワードにして徹底的に差異化を図ることに取り組んできたという。このうちIT活用事例について2つの取り組みを語った。

 1つ目が世界最適生産を支えるIT活用である。全世界で部品表を共通化するとともに基幹業務システムを統一した結果、新製品を世界各地の生産拠点で同時に立ち上げられるようになった。標準化することで、「需要変動に応じて生産拠点を変えるといった柔軟な生産体制になった」と話す。例えば米国市場向けには、製造コストの高い米国の生産拠点では必要最低限の生産量を賄い、足りない分をタイなどから供給するといったことが可能になったという。

 新体制に移行するまでは、世界各地の生産拠点での新製品立ち上げは1年間かけて順次行わなければならなかった。坂根会長が米国駐在時に基幹業務システムにSAP社の既存パッケージ製品を活用したことが改革の発端だったという。それまでコマツは自社開発の情報システムにこだわっていたが、グローバルに展開するには既存のパッケージ製品をベースにカスタマイズすることが重要だと方針転換した意図を語った。

 もう1つが、「KOMTRAX(コマツ・マシン・トラッキング・システム、略称コムトラックス)」と呼ぶ機械稼働管理システムである。同社が製造する建設機械などにGPS(全地球測位システム)を取り付けて、世界各地で稼働する車両(2008年5月現在、全世界で10万台)の状態をリアルタイムで収集する。

 最近になって同様の仕組みは競合他社も導入しているが、坂根会長は「情報の活用度が違う」と強調した。一例として2004年、中国政府の金融引き締め策により、建設業界が大きな打撃を受けた際の取り組みを挙げた。KOMTRAX上で建設機械の稼働率が大きく低下していることがあらかじめ把握できたため、コマツだけが工場の操業を停止し、需要変動に対応できたと語った。

 最後に、最近の取り組みとしてグローバルの人材育成を挙げた。坂根会長は社長在職中、経営理念などをまとめた「コマツウェイ」を策定。その中身は現場主義や顧客重視など7項目からなる。グローバル化が進み、時代が変わっても守ってほしいコマツの強みなどを明文化して共有を図っている。コマツウェイを浸透させることで、海外で採用した優秀な人材を生かすことにも役立つと坂根会長は考えている。「社内の状況を世界各地にある販売店も含めて共有することで一体感が生まれる。グループの一員として認められることでモチベーションが高まる」と話し、講演を締めくくった。