「携帯電話を経由したインターネット利用は,パソコン経由のネット利用を超える」――ソフトバンクの孫正義社長は,インターネット利用の変化をこのように定義し,iPhoneをはじめとした高機能端末が,今後の通信業界をけん引すると展望した。同社長は,2008年6月25日に開催された定時株主総会で登壇。主力となった携帯電話事業のほか,アジア地域のネット企業へ出資を進め,さらなる事業拡大を目指す方針を示した。

 同社長は2008年をモバイルインターネット元年と位置づけているという。その理由は「処理速度」「通信速度」「画面サイズや解像度」の3点において,インターネットを快適に利用できるだけの技術要素が携帯電話に備わったからだ。「2008年には携帯電話がインターネットを表示するための十分な機能を持つと見越した上で,ボーダフォンを買収した」(孫社長)という。

 従来は主にパソコンで利用されていた音楽配信サービスやSNS(social networking service)でも携帯電話からの利用が増えており,「代表的なネットワークサービスは携帯電話にシフトしている」(孫社長)。この方向を決定付ける端末が,ソフトバンクモバイルが7月11日に発売する携帯端末iPhoneであるという。

 iPhoneは8G~16GBと大容量メモリーを内蔵し,音楽の再生だけでなく,さまざまなアプリケーションを実行できる。GPS機能を使って,ユーザーの位置に合わせた情報の取得も可能だ。タッチパネルによる操作性も目新しい。「従来のパソコン以上に便利なライフスタイルを提供できる」(孫社長)。7月11日の発売後は「初期出荷は一気に売れてしまうだろう」と売れ行きに自信を見せた。

 インターネットを使ったより急進的なサービスを提供するのは「従来の電話事業者ではなく,米アップル,米グーグル,米マイクロソフトなどインターネットをより理解している会社が携帯電話事業をリードするだろう」と見通しを示した。

 iPhoneの通信料金の例を見ると,音声通話が月額980円で定額のデータ通信が月額5985円(関連記事)。音声よりもデータ料金に重点を置いている。「このデータ料金に力点を置いた通信料金も,世界的な流れになっていく」(孫社長)。国内の料金は,米国AT&TがiPhoneに適応している料金プランよりもARPU(average revenue per user)が1.8倍。国内の平均的な携帯電話よりも高いARPUが獲得できるという。

 国際展開については,チャイナモバイル(中国移動),英ボーダフォンと合弁会社を設立し,コンテンツの流通を拡大していく方針を示した。アジア進出では,ECサイトの中国アリババのほか,オークションサイトやSNSへの出資を進めている。これらの企業は成長を続けており,投資が一定の効果を出していることを示して「インターネット業界のウォーレン・バフェットのような存在になりたい」(孫社長)と,自らを著名な投資家になぞらえた。

 質疑応答でも,携帯電話事業の将来性を示す発言があった。米グーグルのAndroidについては,あくまで複数あるプラットフォームの一つという考えを示した。同社はインフラ,ハード,コンテンツと携帯電話サービス全体で競争力を向上を目指しており,Androidは要素技術の一つに過ぎないという。

 次世代の通信インフラの投資については,現状ではLTEの世界標準が定まっていないことから静観を続けているが,最適なタイミングを図った上で迅速に導入の意思決定を進めるとした。

 電波品質の向上については,過去に総務省から800MHz帯の許認可が出なかったことを挙げ,次世代サービスに向けた「2012年の周波数の再割り当てでは,順番からしても割り当ててもらえると信じている」(孫社長)という。現状のサービスでは,基地局を増やすことでカバーエリアを拡大するとした。

 孫社長の後継者についての質問では「60代で次世代に経営を譲ると決めている。現在は50歳だが,これからの10~20年で,後継者を見極めたうえでバトンを渡す」と語った。