まつもとゆきひろ氏
まつもとゆきひろ氏
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イーシー・ワン 代表取締役社長,Rubyビジネス・コモンズ 会長 最首英裕氏
イーシー・ワン 代表取締役社長,Rubyビジネス・コモンズ 会長 最首英裕氏
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日本Rubyの会 会長 ツインスパーク 高橋征義氏
日本Rubyの会 会長 ツインスパーク 高橋征義氏
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 「Rubyは10年前のJavaに似ていると言われる。いいところは受け継いで悪いところはその轍を踏まないようにしたい」(まつもとゆきひろ氏),「Rubyに触れて,プログラミングの楽しさを思い出した。この楽しさを技術者以外にも広めたい」(イーシー・ワン 代表取締役社長,Rubyビジネス・コモンズ 会長 最首英裕氏)---2008年6月20日に開催されたRuby会議で,まつもと氏と最首氏が「Rubyによるビジネス」をテーマに対談を行った。

コミュニティがテクノロジをリードする時代

 最首氏はJavaによるシステム開発を手がけてきたイーシー・ワンの代表取締役社長。Enterprise Java Beansの日本での普及を先導したひとりでもある。

 「イーシー・ワンはEnterprise Javaの仕様が公開された1997年に3人で創業し,Javaの普及に合わせて大きくなり4年後に上場,今では社員も約170名になった」(最首氏)。

 しかし「Javaではお客さんの間尺に合わないことが多々出てきた」と最首氏は言う。Rubyによるシステム開発を最初に行ったのが3年前。「プロジェクトは成功。それだけでなく,社員がとても喜んだ」(最首氏)。イーシー・ワンでは2007年にRuby専門チームを設置。2007年度は,Rubyで予想の2倍,約4億円を売り上げた。

 さらに社内の技術者にRubyの研修を施した。170名のうちほぼ全員が受講。「今,新規案件でRubyを入れない話はない」(最首氏)。全員がRuby技術者になったため,専門チームは解散した。

 Rubyビジネス・コモンズは,Rubyによるビジネスを行う人々のコミュニティだ(関連記事)。「10年前,Javaを始めた頃とは違い,コミュニティがテクノロジをリードする時代になった」(最首氏)との認識から,コミュニティを作った。「ノウハウを積極的に公開してしまう。これはある意味の投資。人が集まって,ノウハウが返ってくればうれしい」(最首氏)。Rubyビジネス・コモンズは福岡で立ち上げた。「福岡で出会いがあり,あえて福岡で始めてみようと考えた」(同)。
 
 現在,Rubyビジネス・コモンズのメンバーは約490名。7割はエンジニアで,そのほかにはデザイナー,コンサルタント,営業マンなど様々な職種のメンバーが集まっている。「Rubyの持っている“たたずまい”の影響で,バラエティに富んだ人材が集まっている」(最首氏)。

ビジネスとコミュニティの架け橋に

 まつもと氏は,Rubyとビジネスのかかわりをこう語る。「Ruby on Railsはアプリケーションを速く作れるが,大規模にスケールさせようとするとノウハウがいる。まつもとがいる会社ならなんとかなるんじゃないかと思われるのか,ネットワーク応用通信研究所に電話がかかってくる。おかげさまで依頼が多く,ネットワーク応用通信研究所には50人しかいないので,別の会社を紹介しなくてはいけなかったりする」(まつもと氏)。

 その中で,コミュニティできないことを提供する必要があると考えるようになった。そして作ったのが「Rubyアソシエーション」である。Ruby公式サイトの運営や,Ruby技術認定試験などを実施している(関連記事)。「認定試験については,正直どうよと思っていた。しかし,企業にとってはある程度指標になるものがほしいというニーズがあることがわかった」(まつもと氏)。認定試験については,今後,Railsやオブジェクト指向設計など,もっとレベルの高い試験も用意していく予定だ。

 「ビジネスとオープンソースコミュニティの間に架け橋をかけたい」(まつもと氏)。認定試験などで収益が得られるようになれば,開発者の支援も行いたいとまつもと氏は言う。ミニ未踏ソフトウェアやミニGoogle Summer of Codeのような取り組みも予定している。