第1回IT経営協議会でコメントする甘利明・経済産業相(中央)。リコーの近藤史朗・代表取締役社長執行役員(左)ら日本企業のトップ9人が出席(2008年6月20日、東京・港の明治記念館)
第1回IT経営協議会でコメントする甘利明・経済産業相(中央)。リコーの近藤史朗・代表取締役社長執行役員(左)ら日本企業のトップ9人が出席(2008年6月20日、東京・港の明治記念館)
[画像のクリックで拡大表示]

 経済産業省は6月20日、リコーやトヨタ自動車、大成建設などの会員企業27社と、大学教授など専門家で構成する「IT経営協議会」の第1回会合を開いた。IT(情報技術)によって日本企業の競争力を高めるための10原則を、企業経営者が参考にできる形で簡潔に示した「IT経営憲章」(下部参照)を採択。ITによる経営改善活動の道筋や、協議会会員企業の具体的事例を解説した「IT経営ロードマップ」などと合わせて、近く経済産業省のウェブサイトなどで公開する予定だ。

 IT経営憲章は前文と10原則(A4用紙2枚)から成る。IT経営協議会による「宣言」として、経営者がIT活用や業務改善に対して主体的に取り組むべきテーマを強調。経営者はCIO(最高情報責任者)を任命して、ともに企業改革に取り組むべきことを明記しているのも特徴だ。リスク管理や環境に対する企業責任についても触れている。内容は2007年10月から協議会会員企業のCIOらで構成する「CIO戦略フォーラム」(委員長:リコー遠藤紘一・副社長執行役員)の月1~2回の会合で検討を重ねてきた。

 IT経営憲章採択に先立って、東京海上日動火災保険、リコー、カルビーなど9社の経営者が自社のIT経営への取り組みを紹介した。リコーの近藤史朗・代表取締役社長執行役員は「当社では2001年から、私や関連する全役員、IT担当者が参加する『全社構造改革委員会』を原則として月1回、これまでに63回開いて『経営とITの融合』を図ってきた。私にとって会社の隅々の様々なことを理解できる絶好の機会になっている」と述べた。

電子政府の取り組みに「ユーザー」からの注文も

 IT経営協議会はもともと、企業のIT活用について議論する場だったが、企業ユーザーがふだん利用している電子政府システムに対する不満の声も上がった。

 企業トップたちが政府自体のIT活用の取り組みに注文を付ける一幕もあった。カルビーの中田康雄・代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)は「情報システムはシステムを作る側の立場で作ってしまいがち。ユーザーの声を組み込むべきだ。我々もe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使っているが非常に不便で、ユーザーの立場に立っていない」と厳しく指摘。
 
 りそなホールディングスの細谷英二・取締役兼代表執行役会長も、「JR(旧国鉄・東日本旅客鉄道)と金融機関という規制産業で(官公庁と接しながら)仕事してきたが、中央・地方政府ともにIT化が遅れていると感じる。公務員のITリテラシーも低い。(経済産業相には)ぜひ実力大臣として政府を挙げての取り組みを推進していただきたい」と続けた。

 甘利明・経産相は、「私自身、今日の議論で大いに触発された。甘利事務所のホームページは政治家のホームページとしては充実しているほうだと考えていたが、果たして支援者や国民といったユーザーの視点に立っているかと思い直した」と応じた。

【IT経営憲章】~ITを我が国の競争力の糧とするための10原則~
出典:経済産業省IT経営協議会資料(前文は割愛)
経営者は、グローバル化する経済の中で、国際競争力を獲得し、社会に有用な価値を提供し続けるために、次の10原則に基づき、ITを駆使した企業経営を実践する。

1.【経営とITの融合】経営者は、自らの経営判断に基づき、企業改革や業務改革の道具として常にITを戦略的に活用する可能性を探求する。

2.【改革のリード】経営者は、企業改革にITにおける技術革新の成果を生かし、日々の細かな改善を含め、中長期にわたり、取組みをリードする。

3.【優先順位の明確化】経営者は、取り組むべき企業改革や業務改革の内容を明らかにして、その実現に向けたIT投資の優先順位を常に明確に現場に示す。

4.【見える化】経営者は、ITを活用し、競争優位の獲得に必要な情報や業務を可視化し、かつステークホルダーへの情報開示や透明性の確保に取り組む。

5.【共有化】経営者は、「見える化」した情報や業務を「共有化」し、企業内での部門を超えた業務間連携、業種・業態・規模を超えた企業間連携を促す情報基盤構築やバリューチェーンの最適化に取り組む。

6.【柔軟化】経営者は、ITを活用し、個々の企業の枠にとらわれず、業務やシステムの組み替えや、必要な情報を迅速かつ最適に活用できる事業構造への転換に取り組み、経営環境の急速な変化に柔軟に対応する。

7.【CIOと高度人材の育成】経営者は、最適なIT投資・IT活用を実現するために、CIOを任命し、ともに企業改革や業務改革に取り組む。また、産学官、ユーザー・ベンダの垣根を越えて、ITを駆使した企業改革を推進できる高度人材の育成・交流を推進する。

8.【リスク管理】経営者は、IT活用がもたらすリスクと、問題が発生した際のステークホルダーや社会に及ぼす影響を正しく認識し、その管理を徹底する。

9.【環境への配慮】経営者は、環境に対する企業責任を認識し、IT活用によるエネルギー効率向上や省資源化に取り組む。

10.【国内企業全体の底上げ】経営者は、IT投資から最大限の効果を引き出すためにも、中小企業等企業規模や業種の如何を問わず、企業の枠を超えて我が国企業全体のIT経営の改善・普及に取り組む。