左から、プジョー・シトロエン・ジャポンの飯笹由布子氏、ソニーマーケティングの遠藤康史氏、ユー・エス・ジェイの大森研冶氏
左から、プジョー・シトロエン・ジャポンの飯笹由布子氏、ソニーマーケティングの遠藤康史氏、ユー・エス・ジェイの大森研冶氏
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 「NET Marketing Forum Spring 2008」専門トラックAの最後は、パネルディスカッション「ユーザー参加型広告の可能性と課題--草の根クリエーターの実力は?」と題して、3社のプロモーション事例を基に、狙いや課題などに関して意見を交わした。モデレーターは、マーケティング・コミュニケーション・ユニットMUSBの関橋英作氏、パネリストはソニーマーケティングの広告宣伝部門ウェブコム企画部ウェブプランナーの遠藤康史氏、プジョー・シトロエン・ジャポンのマーケティング部CRM・ダイレクトマーケティングマネジャーの飯笹由布子氏、ユー・エス・ジェイ(USJ)のマーケティング営業本部マーケティング部インタラクティブマーケティングマネージャーの大森研冶氏の3人。

 ソニーマーケティングのサッカー日本代表の応援サイト「project Blue」を皮切りに、パネリスト3社が最近のユーザー参加型広告の取り組みを説明した。

サッカー日本代表の応援通じてソニーブランドを体験

●ソニーマーケティングの広告宣伝部門ウェブコム企画部ウェブプランナーの遠藤康史氏
●ソニーマーケティングの広告宣伝部門ウェブコム企画部ウェブプランナーの遠藤康史氏

 project Blueの主なコンテンツは二つ。一つは、サポーターによる応援メッセージ動画で数字を構成した時計で、日本代表の次の試合までをカウントダウンする「project Blue Clock」。もう一つは、ユーザーがサッカーなどの動画を投稿して、サッカー解説者のセルジオ越後氏と松木安太郎氏のコメントや実況の音声を付けられる「実況ジェネレーター2008」。

 遠藤氏は同サイトの目的を、「ソニーのブランドを体験してもらうこと」と説明。サッカー日本代表をWebサイトなどで応援する取り組みはほかのスポンサー企業が先行しており、ユーザーのファンサイトも多数ある。その中でソニーが関われることを検討し、サッカー関連動画によるWebを通じたコミュニケーションを企画した。実況ジェネレーターに参加するには、ビデオを撮り、パソコンでアップロードする必要がある。そういった行為を通じて「何らかの形で動画文化を創造できれば」(遠藤氏)と考えている。

 同社の調査によると、サッカー試合をスタジアムで観戦する、ネットで情報発信するといった条件の両方を満たす層では、Project Blueの認知度は、約3割に達した。遠藤氏は今後、「サイトの間口を広げ、参加の敷居を低くし、また来たいと思わせることが今後の課題」として、「最終的にはサッカーで入ってきた人をソニーの製品とつながることで、売り上げやブランドイメージの向上に貢献したい」と今後の目標を語った。

広告制作という深い体験で印象づける

●プジョー・シトロエン・ジャポンのマーケティング部CRM・ダイレクトマーケティングマネジャーの飯笹由布子氏
●プジョー・シトロエン・ジャポンのマーケティング部CRM・ダイレクトマーケティングマネジャーの飯笹由布子氏

 プジョー・シトロエン・ジャポンは、2007年に発売した新モデル「207」に関するコンテンツ「207 AD CREATOR」を提供した。ユーザーが同社のサイト上で提供されるクルマなどの写真や文字を組み合わせて、207の広告を作成、公開できるものだ。

 同社はWebサイトを、「クルマの基本情報を分かりやすく伝える」「見込み客情報の獲得」「デザインの良さを実感してもらい、深い印象を残す」という目的で展開している。特に、「クルマは衝動買いをする人は少なく、車検の時に買い換えを検討する。数年に一度思い出してもらえるかがキモになる」(飯笹氏)。その深い印象を残すために、プジョーの良さを考えながらに広告を作成してもらえるAD CREATORを提供した。

 その結果、2カ月で投稿数は3000、投票数は2万、訪問者は28万人に達し、「その後の継続的なアクセスもあるのでまずまず」(飯笹氏)という。ただ、投稿作品のクオリティで「プロ並みに良くできているというのは1割程度」(飯笹氏)であり、ユーザーのクリエーティビティには過度な期待をせず、それを前提にサイトを作った方がいいという経験則を得たという。

ユーザー制作の動画CMがチケット販売に影響

●ユー・エス・ジェイのマーケティング営業本部マーケティング部インタラクティブマーケティングマネージャーの大森研冶氏
●ユー・エス・ジェイのマーケティング営業本部マーケティング部インタラクティブマーケティングマネージャーの大森研冶氏

 USJは新アトラクション「ファンタスティック・ワールド」のオープンに合わせて、ユーザー制作の動画CMを活用したプロモーションを実施した。まず、エニグモの動画CM投稿サイト「filmo」を通じてファンタスティック・ワールドの動画CMを募集。それを外部サイトに流すことで、公式サイト外でのクチコミの自然発生を狙った。公式サイト訪問者のうち7割が来場を決めた人で、見込み客を獲得するためには公式サイト外でのマーケティング活動が重要なためだ。

 全105本の投稿作品から受賞作を決め、ブロガーのネットワークを持つサイバー・バズやエニグモの「プレスブログ」への動画作品の情報提供、「YouTube」の公式チャネル開設、USJのアフィリエイト提携サイト1万8000サイトへの動画ブログパーツ提供などで、動画視聴を促進した。

 その結果、想定の25万回を上回る40万回の視聴を達成したほか、事後の調査で動画を見た人から「斬新である」「独創的である」という感想が得られ、「オフィシャルなコミュニケーションでは得られない印象を与えることができた」(大森氏)と評価している。また、USJのチケット販売サイトへ誘導するブログパーツのクリック率、チケット購入の成約率が大幅に向上した。「コンバージョン率が倍に跳ね上がるのはなかなかない。100%動画の効果かは分からないが、何かしらの好影響があった」(大森氏)と判断しているという。

 その一方、動画を「ブログや口頭で知人や友人に紹介した」と回答したのは視聴者のわずか1%にとどまった。大森氏は、今回のプロモーションを「動画はよく見られたが、自然発生のクチコミ、バズは起きなかった。良くも悪くも広告プロモーションだった」と評価している。

しみじみ面白いではクチコミは生まれない

●モデレーターを務めたマーケティング・コミュニケーション・ユニットMUSBの関橋英作氏
●モデレーターを務めたマーケティング・コミュニケーション・ユニットMUSBの関橋英作氏

 パネルディスカッションでは、関橋氏が「ネットはクチコミを生みやすいという神話がある。今回の取り組みはどうだったか」と問いかけた。それに対して、USJの大森氏は「今回は生まれなかったが、動画CM制作のテーマがテレビCMと同じで企業の論理だった」とプロジェクトを反省した上で、「商品、サービス自体が何かしらパワーを持っていないといけない」とクチコミが自然発生する条件を語った。

 ソニーマーケティングの遠藤氏は「著作権問題から、投稿に利用できるサイトを1日24時間の監視体制を持つ『eyeVio』に限定したが、制限を加えるとクチコミが広がらないというジレンマを抱えている」と、リスク回避とクチコミの広がりのバランスに悩んでいることを明かした。

 プジョー・シトロエン・ジャポンの飯笹氏は、「今回のプロジェクトではクチコミがまったく生まれなかった。告知の量が圧倒的に少なかったので、ある程度の告知量は確保する必要がある」との反省を語り、「クチコミを生ませようと思ったら、しみじみ面白いでなく、圧倒的に、衝動的に面白いコンテンツでないと生まれにくい」と、大森氏同様に、シーディングなどの仕掛けに加えて、商品やコンテンツ自体の魅力が必要との考えを示した。

 最後に関橋氏は、企業のマーケティング活動において「消費者をどう巻き込み、ブランドの認知、理解、そして好感を作っていくかが課題」になっていると指摘。その観点で、ユーザー参加型の企画により消費者にブランドのことを考えて、コンテンツを作ってもらうことは欠かせなくなり、「CGMは、マス広告ではできなくなったブランドと消費者の絆(きずな)をつくる可能性がある」と指摘した。さらに、「ユーザーに面白いと思ってもらい自然発生的なクチコミで広がられるかが今後の課題」として締めくくった。