写真1●NTTの小畑哲哉 財務部門会計・税務担当部長
写真1●NTTの小畑哲哉 財務部門会計・税務担当部長
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写真2●日本オラクル アプリケーションビジネス推進本部の桜本利幸担当ディレクター
写真2●日本オラクル アプリケーションビジネス推進本部の桜本利幸担当ディレクター
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 「シェアドサービスは単なるコスト削減策の一環──グループのほかの企業にこう思われたら、絶対にうまくいかない」。NTTの小畑哲哉 財務部門会計・税務担当部長は同社のシェアドサービスの経験をこう振り返る(写真1)。同社は「2008年米国シェアードサービス最優秀企業賞」を日本企業として初めて受賞した。小畑担当部長は「グループ連結経営の基盤として、シェアドサービスが重要だと説くのが成功のコツ」と強調する。

 小畑担当部長の講演は2008年6月13日に開催された「After J-SOXシンポジウム2008」でのもの。NTTは再編をきっかけに、グループ連結経営の一環として経理・財務業務のシェアドサービス化を進めている。10年がかりの取り組みだ。07年にはグループ100社以上が利用する「共通経理システム」を稼働。現在、65社が同システムに移行済みで、2010年までに移行が完了する計画だ。

 NTTにとって共通経理システムの構築は、経理・財務業務のシェアドサービス化の“第2段階”に当たる。同社がシェアドサービスに取り組み始めたのは1999年。NTT本体にグループ各社の経理・財務や契約にかかわる業務を提供するビジネスアソシエ アカウンティング事業部を設立し、第1段階としてシェアドサービスの対象部門内で業務の標準化を進めた。

 05年度からは「グループ全体における経理・財務業務のQCD(品質、費用、納期)を一層向上させる」(小畑担当部長)ことを目指し、第2段階に着手。グループ全体の業務プロセスの標準化を目標とした。

 業務プロセスを標準化する手段として、ERP(統合基幹業務システム)パッケージを選択。ERPパッケージの持つ業務プロセスに基づき、NTTグループの経理・財務のあるべき業務プロセスを定義していった。ERPパッケージとして日本オラクルの「Oracle E-Business Suite」を採用した。

 ERPパッケージの導入は、内部統制の整備・運用を支援する狙いもあった。NTTはニューヨーク証券取引所に上場しているので、日本版SOX法(J-SOX)に加え米SOX(サーベインズ・オクスリー)法404条への対応も必要になる。ERPパッケージの導入とともに業務プロセスを標準化することで「リスクとコントロールの共通化や、不正や間違いの早期発見に役立っている」と小畑担当部長は話す。

 NTTの小畑担当部長に続き、登壇したのは日本オラクル アプリケーションビジネス推進本部の桜本利幸担当ディレクターだ(写真2)。桜本担当ディレクターは、米オラクル本社が実施した業務プロセスの標準化とシステム統合の事例を紹介した。

 米オラクルは現在、145カ国全体で共通の業務プロセスで同一システムを利用している。だが、1998年には国別や業務別に65以上のシステムを抱えており、「世界的に同一の戦略を展開するのが難しかった」(桜本担当ディレクター)。業務プロセスだけでなく業務システムもバラバラで「システムにかかるコストを米本社でコントロールすることもできなかった」(同)。

 米オラクルはこうした状況を打開するため、全世界で業務プロセスの標準化に着手。ラリー・エリソンCEO(最高経営責任者)の号令のもと、全世界で共通となる業務プロセスの定義プロジェクトを立ち上げた。99年に第1弾を公表。2001年には、全世界のオラクルの売上高のうち80%以上を、共通の業務プロセスで処理した。

 同時に業務システムの統合も開始。「グローバル・ワンインスタンス」を目指してシステムを集約し、04年5月に全世界で利用するシステムを一つに統合した。業務システムの運用は現在、インドの「GFIC(Global Financial Information Center)」に集約。インドに拠点を置く利点として、英、仏、独など複数の外国語を話せる優秀な人材が豊富な一方、費用を従来の7分の1に抑えられる点を挙げる。

 米オラクルはこれらの取り組みの結果、全社的に年間約1000億円のコスト削減に成功。決算プロセスも13日かかっていた集計作業を4日に短縮できた。加えて米SOX法とJ-SOXの双方に対応する日本オラクルにとって、「統合を進めた業務プロセスやシステムが内部統制の整備・運用の基盤になっている」(桜本担当ディレクター)という。