読者のみなさんは最近,こんなニュース記事(実際にはうわさ)を見聞きしたことはないだろうか。米Microsoftが,「Windows XP」の販売期間を延長すべきかどうかを判断する材料に使うために,電話サポートの内容を記録しているというものだ。

 同社はWindows XPの店頭販売と消費者向けパソコンへのプリインストール販売を,2008年6月30日で打ち切る予定だ。前述のうわさの出所はある技術マニアのブログだが,Microsoftによると完全に誤りだという。このうわさは,Windowsユーザーを混乱させている数々の偽情報の一例に過ぎない。そろそろ情報をきちんと整理した方がよいだろう。

 実際には,以下のような状況になっている。

 まず,MicrosoftはOS製品に適用する公式ライフサイクルとして,各Windowsの販売をリリース後4年間続けるというルールを設けている。Windows XPは2001年10月発売なので,通常だったら後継OSの「Windows Vista」が発売される約1年前の2005年終わりに出荷停止となるはずだった。

 そのままではWindows販売に空白期間が生ずるため,Windows XPの販売停止時期をWindows Vista発売1年後の2008年1月まで延期した。ところが,お気づきのように2008年1月もとっくに過ぎてしまった。というのも,同社が2008年6月末まで再延期したからだ。

 6月の最終日に起きることは限られている。あまりたくさんの出来事はないだろう。例えば,Microsoftは7月1日になってもWindows XPのアクティベーション処理を止めず,Windows XPユーザーにWindows Vistaへのアップグレードを迫る。実際に,筆者はMicrosoftから「将来Windows XPのアクティベーション処理を止めるという計画は全くない」と聞いた。

 「Microsoftは6月30日が過ぎると,Windows XPの『サポートを行わない』」という話を耳にした人もいるだろう。この情報にショックを受けたMicrosoft副社長のMike Nash氏は6月第1週,筆者に「Windows XP用サービス・パック『Service Pack 3(SP3)』の提供を始めたばかりで,このメジャー・アップデートのサポートを7週間で打ち切ることなど考えてもいない」と述べた。

 Nash氏は「2014年4月までWindows XPのサポートを続ける」と笑い,「Windows XPの寿命は12年半にも及ぶ」とした。同氏は「ソフトウエア製品にこれほどのサポートを提供する企業はそうない」と指摘した上で,「Windows XPのライフサイクルを人間の成長に例えると,もう7年生になるところだ」と話した。

 それに,Windows XPは2008年中に姿を消したりしない。6月30日以降になっても,やる気になればWindows XPを入手できる手段は残る。ただし,Windows XPに特例が設けられたわけでも,新たな製品ライフサイクル・ポリシーが作られたわけでもない。

 Microsoftは,現行版Windowsライセンスの購入者に対し,数年前までの旧Windowsへ「ダウングレードできる権利」を提供しているのだ。Nash氏は,「懐古趣味」のユーザーなら「Windows 2000」にダウングレードすることも可能と明言した。

 ダウングレードは以下のように手続きする。規模によらず企業ユーザーは,「Windows Vista Business」「同Enterprise」「同Ultimate」のライセンスを購入すると「Windows XP Professional」をインストールできる。

 このダウングレードは,少数のパソコンを新規購入した際に,Windowsの新旧バージョンを混在させたくない企業が通常とる方法だ。この場合,本来のWindows Vistaへの「アップグレード」は好きなときに行える。家庭ユーザーもダウングレード権を行使できる。Microsoftと提携しているパソコン・メーカーは企業向けのダウングレード権を持っており,これを自社の顧客にも可能なのだ。

 「ダウングレードという手続きを抜け道とか『秘法』とみなす人がいる。ところが,実際にはそのどちらでもない。きちんと明文化されており,大昔から存在するよく知られた製品ライフサイクル・ポリシーだ。旧バージョンを求める人は以前からいた。この事実は昔から変わっていない」(Nash氏)

 最後の情報を整理しよう。Microsoftは,インターネット・アクセス用途に特化した小型のノート・パソコン「Netbook」やデスクトップ・パソコン「Nettop」なども含め,このごろ急拡大しているニッチな超低価格パソコン(ULCPC:Ultra-Low-Cost PC)の市場に対応するため,こうしたデバイスへの搭載用途に限定して「Windows XP Home Edition」だけ販売期間を1年間延長する(関連記事:Windows XP Homeの販売期間,超低価格パソコン向けに再延長)。

 米Appleの熱狂的なファンで口やかましく,Appleの「反Vista買い換え広告」に賛同しているiCabalは,「この種のデバイスがWindows XPを継続使用するということは,やはりWindows Vistaが失敗だったからだ」と主張した。

 これに対しNash氏は「ばかばかしい主張で,(Widows XPの継続使用は)単に当社が現実主義だからだ。ULCPCは新興国で初めてパソコンを買う人向けの低速/低機能なデバイスであり,Windwos XPの販売を続けるための道具ではない」と答えた。Windows Vistaが最小限のリソースしかないULCPCだとうまく動かないという事実は,Windows VistaよりもULCPCの特性を物語っている。

 つまり,望みさえすれば6月30日が過ぎてもWindows XPは入手できるし,Microsoftも2014年まではサポートする。サポートが終了するまでに,Windows XPから数えて3世代後のバージョン「Windows 8」が登場しているはずだ。そのころには,Windows XP継続という見当違いの要求も鳴りを潜め,本来の状況に戻っているだろう。

■変更履歴
本文の一部で“ダウングレード”の表記が間違っているところがありました。また,変更日の日付が間違っていました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2008/06/06 18:10]