写真1 野村総合研究所の寺田雄一氏
写真1 野村総合研究所の寺田雄一氏
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 「企業システムを構築するうえで,オープンソース・ソフトは必ず役に立てる場所がある。オープンソースと商用の両方を見てほしい」――。

 野村総合研究所(NRI)の寺田雄一氏(情報技術本部 オープンソースソリューションセンター マネージャー,写真1)は2008年6月4日,都内で開かれたセミナーでこのように述べ,ITエンジニアはオープンソース・ソフト(OSS)にもっと目を向けるべきだと強調した。これは,日経SYSTEMS主催の創刊2周年記念セミナー「ITアーキテクトのためのシステム設計フォーラム」の基調講演で語ったもの。OSSに目を向けるべき理由として寺田氏は,ソフトの成熟度が高くコミュニティが活発であることと,有償のサポート・サービスが充実してきていることなどを挙げた。

ロードバランサもクラスタ・ソフトもOSS

 最初に寺田氏は,NRIのアナリスト・チームが作成した「オープンソース・マップ」を見せ,OSSの分野ごとの成熟度とプレゼンスの高さを示した。それによると,DBMSでは「MySQL」と「PostgreSQL」,APサーバーでは「Tomcat」と「JBoss AS」が際立っている。ただ,各分野の他ソフトも成熟度・認知度が上がっていると補足した。また,業務アプリケーションやロードバランサ,クラスタ・ソフトなどもあり,実際に導入事例も出てきている。寺田氏は「オープンソース・ソフトは普及期にある」と指摘する。

長期間使いたいというニーズに合う

 次に寺田氏は,OSSの導入事例を基に,現場の生の声を紹介した。あるオンライン証券会社では,以前商用APサーバーを使っていたが,サポート面に不満を抱えていた。その不満とは「サポート期間が短く,すぐにバージョンアップを迫られる」「不具合時の問題の切り分けはユーザー責任になる」「窓口のオペレータがエンジニアではなく技術的な話が通じない」「独自パッチを提供してもらえずバージョンアップまで待たされる」――といったもの。それらを解決するためにOSSの有償サポート・サービスに注目し,「長期間サポート」「独自パッチの提供」といったニーズを満たすことからJBoss ASの採用に踏み切ったという。

OSSのスキルは2種類

 OSSは普及してきているとはいえ,「日本全体で見ればまだまだ少ない」と寺田氏は語る。伸びる余地があると期待しているが,課題として「技術者不足」「スキル不足」を挙げる。それらが不足していることから,「かえってコストが高くなるのではないか」との不安があると分析している。

 それに対する寺田氏の主張はこうだ。まず,OSSのスキルには2種類あると指摘。一つはコード・レベルのスキル(ソースコードを読み解く技術)で,もう一つは利用技術のスキル。後者のスキルは商用であろうがオープンソースであろうが同じ。違いはコード・レベルのスキルにある。これは商用製品なら製品ベンダーが提供してくれるもの。OSSにおいても,この部分のノウハウを提供してくれるサービスがあれば,それを活用することで商用製品との違いはなくなる。「求められるのはコード・レベルのスキルを補ってくれるサポート・サービスで,既にそうした有償のサービスは充実してきている」(寺田氏)という。

開発ノウハウを蓄積するインフラにOSSはふさわしい

 最後に寺田氏は,メインフレーム時代からのシステム構築の変遷をたどり,オープンソースの未来について言及した。メインフレーム中心に企業システムを構築していた時代は,インフラが共通化されていたのでシステム開発やテストのノウハウは蓄積しやすく,技術レベルは高かった。ところがクライアント/サーバーが全盛になると,さまざまな製品を組み合わせてシステムを構築できるようになった半面,技術の蓄積は難しくなったと指摘する。その反動から,ここに来て共通のインフラが求められており,それに「OSSはふさわしい。開発ノウハウを蓄積する社会インフラとして育てていくべきではないか」(寺田氏)と訴える。

 OSSは特定のベンダーに左右されず,コミュニティが主体となって開発を進めていることがその主な理由だ。ただそうした「社会インフラ」となるにはまだやるべきことが多数あり,コミュニティを支援するためにもOSSの利用拡大が欠かせない,と寺田氏は語る。そこで,OSSをさらに普及させるため,寺田氏が所属するNRIをはじめ,SRA OSS,電通国際情報サービスの3社が発起人となり「オープンソースビジネス推進協議会」を今日,発足させることを明らかにした。この協議会では,ユーザー企業がOSSのメリットを享受できるように,必要な情報やノウハウなどを提供する。